2018年に大きく株価が上昇し、2019年は見る影も無くなった大麻銘柄だが、今度はどうなるだろうか。ボナベンチャー・エクイティのCEOロス・オブライエン氏は、Entrepreneurで「伝統的なベンチャーキャピタルが大麻企業に投資しない理由」を書いている。
正確には2020年1月21日に発売されたばかりの”Cannabis Capital: How to Get Your Business Funded in the Cannabis Economy“から本人が抜粋したものでその内容は興味深い。
従来のベンチャーキャピタル(VC)はパートナーシップ契約にあたりモラル条項(moral clause)を遵守する必要がある。モラル条項は、タバコや銃器、ポルノ産業などの企業への投資を禁止する条項である。
米国でも大麻を合法化する州が増えており、連邦政府も産業用大麻の栽培を合法とするなど規制緩和の方向である。しかし、依然として大麻は米国麻薬取締局(DEA)の薬物スケジュールⅠに指定されており、これが維持される限りモラル条項に引っ掛かり、伝統的なVCは大麻企業に投資できないという。
DEAによると、薬物スケジュールⅠは以下のようなものである。
スケジュールⅠの麻薬、物質、化学物質は、現時点で医学用途が認められておらず、濫用の可能性が高いものとして定義されている薬物である。以下がスケジュール1の薬物例である。
ヘロイン、リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)、大麻(カンナビス)、3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(エクスタシー)、メタカロン、ペヨーテ
DEA, Drug Schedulingより引用和訳
オブライエン氏は、今後連邦政府が大麻の医学用途を認め、スケジュールから外せばヘルスケア分野などで伝統的なVCも投資ができるようになるという見方を示している。また、新興のVCでは既に多くの投資が行われており、2018年は2000年以来初めてVCによる総投資額が1,000億ドルを突破した。当初はアーリーステージへの投資が多かったが、2019年はレイトステージへの投資額がアーリーステージを超えたという見方を示している。
これだけ見れば非常に前途有望であるが、例えDEAの規制から外れたとして、そう簡単に伝統的なVCが大麻企業に手を出すとは考えにくい。なぜなら表題の通り、大麻企業はESGとは絶望的に相性が悪いからだ。
ESGは現時点では国際的に統一された基準があるわけではないが、多くの場合、上のモラル条項に関わるようなタバコや銃器、ポルノの他、石炭やギャンブルといった企業を除外するというスクリーニングの形で運用されているのが実態である。
医療大麻など限定的にヘルスケア分野で役立つ用途が認められるという動きは世界各地にあるが、基本的には程度の差はあれ有毒性のある薬物であることには変わりが無い。恐らくESGの観点で言えば判別の難しい分野になるだろうし、今後統一的な基準を策定していくにあたっても揉める可能性が高い。
嗜好品としての大麻を扱う企業と医療用途としての大麻を扱う企業を明確に分けるべきだという話になるかもしれないが、医療大麻が合法化されて大麻栽培が拡がっていけば、医療大麻企業に投資することも嗜好品としての大麻の普及に加担していると解釈されても不思議ではない。
こうした間接的な影響について、どの観点から問題が指摘されるかはわからない。例えば、嗜好用大麻合法化が10代の大麻利用率を押し下げている効果が報告されるなど、直感的でない影響がある。この場合、寧ろ大麻を合法化するべきということになるが、見方によって真逆の結論にもなるので、不明確なうちは伝統的なVCが飛び込みやすい分野ではない。