21日にトヨタグループの豊田中央研究所は、人工光合成(CO2と水のみから有用な化学物質を生成してエネルギーとして貯蔵する技術)において顕著な成果を発表した。植物の平均的な光合成によるエネルギー変換効率が0.3%(変換効率が高いものでも1%程度)であるのに対し、今回発表された技術はそれを大幅に上回り世界最高の変換効率7.2%である。
豊田中央研究所の新しい成果は、半導体と分子触媒を用いて蟻酸(ギ酸)を常温常圧で生成するものである。しかも従来難しいとされていた「変換効率を落とさずに実用レベルの大きさにする」という点でも大きな成果をあげており、1辺わずか36cmまで小型化している。(下図)
生産コストや大量生産など商用化に向けてのハードルはまだまだこれからだと思うが、これは将来的に環境対策に革命的な影響を与える可能性があると考えられる。
蟻酸は、抗菌剤や防腐剤、殺虫剤として広く利用されているだけでなく、発火性を持つ性質から燃料電池への応用も研究されている。CO2を回収してエネルギーに変換するというプロセスを通して、排出権取引など環境・商業的な応用性は非常に高いと考えられる。
単純に植林の代替として考えても非常に効率的である。杉と比較すれば面積はわずか1/100で済む。自然を守るための植林は重要な作業の一つであるが、それだけ「人間が利用する土地を減らす」という意味合いがある。同じ効果を1/100の面積で得られるならば、環境対策として効率的であるだけでなく、人間の経済活動への影響も最小限に抑えられる。
「持続可能性」を考えた時、どうしても環境への影響ばかりが意識される。しかし、SDGsという言葉を取り上げなくとも、人間の経済活動もうまく回らなければ当然持続可能性は無い。森林伐採は環境に大きな悪影響を与えて問題だが、別に人間も無意味に伐採しているわけではない。土地が必要であり、またその木材も必要だからだ。
環境を元に戻すプロセスとして植林を行うことを考えれば、これはすなわち人間が使う土地が減るというわけだ。砂漠の緑化など極端な例を除けば、基本的に人間の経済活動に近い場所で行われることが多い。花粉症みたいな問題も起こる。
環境問題・エネルギー問題の究極的な解決方法として、筆者は常温核融合と人工光合成だと考えている。(前者は実現が不可能と考える論者もいる。)後者が実用化すれば、環境問題対策を大きく変えると考えられ、その技術が既に産まれた可能性がある。