ESGやSDGsというキーワードがブームになることにより、投資に環境負荷の事を考えなければならないといったムーブメントが広まってきている。これにより、以下の記事のように一律に石炭企業が出資を得られなくなることで鋼材の原料としての原料炭にも影響が出るなど市場に歪みも出ているが、そうしたものは抜きにしても個人投資家はともかく、投資ファンドなどは何らかの配慮をすることが政治的に正しい(ポリティカル・コレクトネス)とされつつある。
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石炭の次に標的にされるのは何か。そのターゲットの候補が金やダイヤモンドなどの貴金属や宝石である。
環境に配慮して持続可能な形で倫理的に宝飾品を消費しようというのがエシカル・ジュエリー(ethical jewelry)やサステイナブル・ジュエリー(sustainable jewelry)と呼ばれる概念である。
先日もCEOWORLD Magazineでサステイナブル・ジュエリーについての論考が掲載されていた。
CEOWORLD Magazine, “Heading the Change in the Jewelry World through Ethical Fashion”, 7 Feb 2020
金鉱業や銀鉱業では鉱山をダイナマイトで爆破して砕石することで周囲の環境に影響を与えるだけでなく、金や銀を抽出するのにシアン化合物を利用することで地下水が汚染される。金の指輪1つ作るのに26トンの廃棄物が出る。
ダイヤモンド1カラットを採掘するのに57kgの炭素を排出し、477リットルの水が使用される。更にダイヤモンドの大半は紛争地域で出土するため紛争の原因にもなっている。
宝飾品により環境や人命に影響を与えるので、金や銀などは極力再利用し、ダイヤモンドについては最近注目されている人工ダイヤモンドを利用することにより、持続可能な宝飾産業を維持すべきという内容である。
サステイナブル・ジュエリーやエシカル・ジュエリーという用語はまだまだ知名度が低く、ESGやSDGsといった用語に比べれば検索数で見ても微々たるものである。しかし、その知名度の成長速度は最近のESGやSDGsの知名度向上に牽引されている。
以下は、Googleトレンドにおいて、ESG、SDGs、sustainable jewelryの検索数を、2018年1月7日を100とした時の推移である。宝石需要という性質からsustainable jewelryの検索数の季節変動は非常に大きいが、SDGsの検索トレンドと非常に似た形で増えてきていることが分かる。
ゴールドバブルに注意でも示したように、金需要の半数は宝飾品需要であり、宝飾品需要の半数を占める中国とインドで金需要が減少傾向にある。更に今後サステイナブル・ジュエリーという概念が先進国を中心に拡がっていけば、宝飾品としての金需要が全体的に減っていくことになる。
無論、宝飾品需要が減って金価格が下がれば産業用途にはメリットがある。産業需要の割合が増えれば需要の傾向として銀やプラチナと近くなるので、単純に景気後退懸念がある時の資金退避先としての金の地位が変わることになるかもしれない。
或いは、サステイナブル・ジュエリーだけでなく広くSDGsやESGの観点に金産業が入ることになれば、ESGに配慮した時にスクリーニングに残る企業が相当少なくなってしまう。再利用した金を使わないと環境に配慮したことにならないのであれば、半導体関連でもかなり制約が出てくる。
宝飾品だけ環境に配慮し、産業用途では配慮しないのは一貫性が無い。その意味でサステイナブル・ジュエリーという概念はまだまだ問題は多いが、今後注目度が高まっていくかに注意が必要である。