インドネシア呼吸科医協会(PDPI)は、国立呼吸器高度医療センターの肺がん患者数が15年で10倍近く増加したことを示した。癌患者自体の増加は平均寿命の伸びで自然であるが、インドネシアの場合、癌として最も多いのが肺がんであり、男性が88.8%(女性が11.2%)を占めるという異常な男女比が特徴である。
肺がん患者の9割近くが男性という背景には、インドネシアの高い喫煙率に起因する。以下は世界保健機関(WHO)による世界とインドネシアの男女別喫煙率の推移(2020年以降は予測値)である。グラフを見て分かる通り、世界的には男女ともに喫煙率が低下してきているが、インドネシアの男性は年々喫煙率が増加傾向にあり、2015年時点で76.2%と世界最高の喫煙率である。
逆にインドネシアの女性の喫煙習慣は殆ど無く、女性の喫煙率は世界平均よりも低く、その割合も減少傾向にある。なぜインドネシアの男性の喫煙率はこれほど高く、更に上昇し続けているのだろうか。
貧困、タバコの安さ
喫煙率の高さの一つは貧困である。一般的に低所得者層ほど喫煙率が高い傾向にあるが、そうした地域では若いうちから子供が働くケースが多く、親や労働環境における喫煙習慣の影響を受けやすく、若年層からの喫煙率が高いのがインドネシアの特徴である。WHOによれば、2014年におけるインドネシアの13-15歳の喫煙率は男性で36.2%にも達する。
インドネシアではタバコの価格が非常に安い(1箱1ドル程度)ので、貧困層でも手軽に利用しやすい嗜好品であることも喫煙率の高さに影響している。
法規制
子供の喫煙率の高さの原因にはインドネシアには喫煙年齢を規制する法律が無いということもある。喫煙場所を規制する規定も殆ど無く、広告面での規制も欠如していることも大きい。大手タバコ企業が公共施設や各種イベントなどでもスポンサーとして名を連ねており、この点でも世界的な流れとは逆行している。
その反面、電子タバコの全面禁止を検討するなどアンバランスな法規制の動きもある。これは電子タバコの危険性に対する配慮もあるが、タバコ企業からの影響も大きいだろう。
宗教、タバコのイメージ
ご存知の通りインドネシアでは国民の大半がイスラム教徒である。飲酒ができないということで嗜好品としてタバコに傾倒する人が多いというのも関係している。エジプトなどで喫煙率が伸びているのも同様の影響である。
そしてインドネシアでは依然としてタバコが「男性らしさの象徴」となっており、大人の男性になるための通過儀礼としてのイメージが強い。それは広告やテレビなどでの露出が更にそのイメージを強めるが、前述の通り法規制は殆どなく、広告は企業の自主規制に委ねられている。
参考文献
[1]TEMPO.CO, ” Indonesia Sees Increasing Lung Cancer Patients 10-fold “, 12 Feb 2020
[2]CNN「子どもの喫煙、インドネシアで拡大<下> 広告や販売の規制緩く」2017年12月24日[3]ブルームバーグ「インドネシア、電子たばこ全面禁止を検討-保健省高官」2019年11月22日