インドネシア人大学生が陥る「3K」

日本で3Kと言えば「きつい(Kitsui)、汚い(Kitanai)、危険(Kiken)」であり、英語圏に3Ds (Dirty, dangerous and demeaning)として輸出されているが、インドネシア語で3Kは”Kuliah(講義) – Kafeteria(食堂) – Katil(ベッド)”の意味で使われている。

これはインドネシアの大学生が、講義を受け、食堂でご飯を食べ、帰ったら寝るだけの「勉強漬けの生活」を問題視する言葉である。Komputer(コンピュータ)を加えて4Kと表現する場合もある。

(インドネシア語やマレー語ではKafeteriaやKomputerに限らず外来語はtexi<タクシー>やbas<バス>など発音をそのままローマ字表記するものが多い。)

インドネシアでは大学の学長などが決まって式典などで「3K症候群に陥らないように」と学生に呼び掛ける言葉である。先日も摂政であるトゥンク・アブドゥラ・スルタン・アフマド・シャー氏(次期国王になると目される)が同様の言葉を述べた事がメディアに取り上げられた。勉強しない日本の大学生とは真逆である。

Bernama, “Avoid ‘3K’ syndrome, university students told”, 22 Feb 2020

氏は「労働市場に入る自信を持つことは勿論、持つ人前で話すこと、批判的・創造的思考といったリーダーとしてのスキルを高める必要がある」と指摘している。学生が学術的成果だけに囚われて卒業生が市場性を持っていないことを問題視し、大学側も量よりも質に焦点を当て、理論と実践のバランスを摂るように促す発言である。

上で「日本の大学生とは真逆」と言ったが、アルバイトやサークル活動に勤しむ日本の大学生が、これらの能力を持っているかはさて置き、インドネシアではアルバイトなども含めて勉強だけでなく様々な経験が必要という意味で言及される。

但し、これはインドネシアの社会構造とも関連する問題である。基本的にインドネシアの大学生はアルバイトをしない。インドネシアでは急速に大学進学率が伸びているが、短大などを合わせても約36%(2018年)である。

日本で大学進学率と言えば約53%(2018年)の数値がよく取り上げられるのでインドネシアは意外に高いように思えるがこれは純粋に大学の話であり、短大や専門学校なども含めた高等教育機関進学率は約82%である。

まだまだインドネシアでは大学進学できる人が少ないのは所得の問題があり、大学に行ける人は裕福な家計であることが多い。多くの大学生は仕送りで生活しており、アルバイトをする習慣が無い。(しようと思ってもフルタイムの中卒・高卒労働者が多くいるので、わざわざパートタイマーを雇う企業も少ない。)

寧ろ「学生にアルバイトをさせるのは可哀想」と考える親が多く、とにかく勉強をすべきという価値観を持っていることが多い。これはインドネシアに限らずタイなど他の東南アジア諸国でも共通する考え方である。

これがインドネシアで言及される「3K」問題を生んでいるわけだ。

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