今の所(2020年2月28日現在)、サウジアラビアでは新型コロナウイルス(COVID-19)の患者は報告されていない*1。しかし、最も影響を受けている若しくは踏んだり蹴ったり状態なのがサウジアラビアと言える。
原油価格が下がっていることは言うまでもない。実体経済への懸念に敏感な商品の一つだからだ。それでも2月26日まではWTI原油価格は50ドルを切ると反発していた。(2月4日の終値が49.61ドル、2月10日の終値が49.57)
しかし、2月27日は50ドルを大きく下回り、2020年2月28日10時現在46.45ドル付近まで落ち込んでいる。
その理由は大きく2つある。まずWHOの事務局長がこのタイミングになって「パンデミックになる可能性がある」と発言したことである。これまで中国への配慮が過ぎる発言が多かったが、もはや無視できない状況になっている事を意味し、市場は総悲観である。
もう一つが、国営石油会社アラムコが海外IPOの時期の早期化に向けての準備を行っていると、匿名筋の情報が報道されたことである。アラムコは2019年12月にサウジアラビア証券取引所で史上最大のIPOを実現したが、その後原油価格の低下で時価総額はピーク時より10%以上下回る。そんな中での第二弾IPOの早期化計画である。
Bloomberg, “Aramco Starts Early Preparations for an Overseas Listing”, 27 Feb 2020
ここから何よりもサウジアラビア政府の「大きな焦り」が伝わる。それもそのはずで、そもそもアラムコのIPOはサウジアラビアの脱原油依存が目的である。IPOで集めた資金を非原油経済への投資に回すのが(企業の資金調達の在り方としてはどうかと思うが)目論見である。
第二弾IPOもその一つだが、早期化する理由は観光への影響である。サウジアラビアは2019年に観光ビザを解禁したが、観光は非原油収入の増加のための柱の一つである。サウジアラビアは2030年までに年間1億人の観光客を呼び込むことを目標としている。
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しかし、元からサウジアラビアは国際統計的には「観光立国」である。巡礼ビザは元から存在し2019年も750万がウムラと呼ばれる小巡礼を行っている。外国人訪問は全体で毎年800万人程度にのぼると考えられている。
イスラム教において一生に一度は義務づけられている7月からの大巡礼(ハッジ)は毎年200万人がメッカを訪れるが、それ以外の巡礼がウムラ(小巡礼)である。
しかし、新型コロナウイルスにより27日、サウジアラビアは22ヶ国からウムラのための外国人の入国を一時的に禁止する措置を発表した。 対象国はTRAICYによると、日本、中国、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、インド、パキスタン、アフガニスタン、イラン、イラク、シリア、レバノン、イエメン、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、イタリア、ソマリア、ベトナムである。
TRAICY「サウジアラビア、コロナ感染国からの入国制限 日本など、観光ビザ申請できず」2020年2月27日
中東各国は勿論、マレーシアやインドネシア、インド、パキスタンなどイスラム教徒が多いアジア諸国も新型コロナウイルスが発生しているとして対象となっており、その影響は大きい。特にマレーシア事業者は巡礼だけでなく観光も含めてサウジアラビアへのビジネス機会を好機と捉えていたので、その影響はかなり大きいと考えられる。
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また、インドネシアからの15~20万人の巡礼に影響があると報道されており、影響はこれからと言える。
Reuters, “Saudi Arabia bars pilgrims and tourists amid coronavirus”, 27 Feb 2020
*1:1月にサウジアラビアで勤務するインド人看護師が感染したとインド外務担当国務大臣が報告していたが、サウジアラビア当局は無視し、なかったことになっている。(参考:ロイター「サウジ、国内の新型肺炎感染者巡る報道を否定」2020年1月23日)
2020年3月5日追記:首都リヤドでは月曜日に続いて水曜日に2人目の症例が確認されているのを受け、サウジアラビア政府は、旅行者だけでなく自国民・住民に対してもメッカやメディナなどへの巡礼を停止した。 この決定は状況に応じて随時見直される。
Reuters, “Saudi Arabia extends pilgrimage suspension to its own citizens”, 4 Mar 2020
韓国の宗教団体での感染拡大もそうだが、イスラム教徒の礼拝も密集して行われるので濃厚接触が起こりやすい。イランの感染拡大や自国の医療体制の問題から考えても、サウジアラビア政府が非常に深刻視している状況が垣間見える。