4月23日夜から1ヶ月にわたり、イスラム圏では断食月であるラマダンが始まっている。ラマダンは日の出から日没にかけて断食を行うムスリムの義務である。日没後はイフタールと呼ばれる砂糖やココナッツを使った食事が摂られ、ラマダン月は砂糖消費量が跳ね上がるのが通例だ。残念ながらムスリムの砂糖消費量の増加以上に、世界的な経済収縮により砂糖価格は2月以降低迷している。
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コロナ渦におけるラマダンは、イスラム教の今後を考える上で重要な材料を与えてくれる。イスラム金融などの投資は注目されるが、肝心のイスラム教の頑強性をいかに維持できるかがポイントだからだ。
アル・ジャジーラによれば、今ムスリムである医師は、ラマダンを忠実に実行するかどうかで揺れているという。何故なら、連日連夜世界中で運び込まれている新型コロナウイルスの患者に対応するため医師は激務の状態であり、日没後しか食事を摂れないというラマダンは過酷であるからだ。
医師は院内感染を避けるために特に注意せねばならない。これは消毒やマスクなど予防の面も重要だが、免疫力を維持することも同程度に重要だからだ。過酷な労働事情の中で食事を摂れないのは身体への負担が大きい。
もっとも、イスラム教の教義を字の如く解釈すればラマダンには例外規定がある。「生きる知恵」という性質としてイスラム教を見た時、ラマダンが医師の生命に悪影響を及ぼすならば、ラマダンの実行を遅らせることも可能である。
但し、それが認められるかは国やイスラム教の宗派によって異なる。ラマダンとオリンピックが重なる時はオリンピック選手はラマダンの例外規定を認めるといった緩い立場もあれば、今回のようなパンデミックのケースでも医師に例外規定を適用することに難色を示すケースも見られる。これは政治的な理由もあるが、イスラム原理主義の曖昧さに起因するだろう。
重要なのはパンデミックのさなかにおいて、イスラム教の様々な側面で例外が適用されているという状況である。小巡礼(ウムラ)を取りやめているだけでなく、ラマダン期間中は自宅でのお祈りが推奨され、もしかしたら大巡礼(ハッジ)すら中止されるかもしれないのだ。
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緊急時に宗教の「正しい」在り方を維持できないというのは、長期的な目線に立った場合に宗教の持続性の問題を生む。キリスト教のようにより柔軟な形へシフトするという未来を想定できなくもないが、そうすればイスラム金融のようなポジショニングの維持が難しくなる。イスラム金融にも投資している筆者は、今こうした大域的・長期的な視点でイスラム世界を見ている。
参考文献:Al Jazeera, “Ramadan during coronavirus: Muslim doctors weigh whether to fast”, 23 Apr 2020