インドネシアのジャカルタ首都移転を挙げるまでもなく、海面上昇による洪水は東南アジアにおいて切実な問題である。更に昨年から長引く東南アジアの干ばつによる電力への影響など深刻である。タイでは電力はそれほど問題にならないと見られるが、水道水の塩分濃度の上昇など干ばつと海面上昇両方による悪影響が深刻となっている。
農業と健康への影響
水道水の塩分濃度上昇のメカニズムは簡単である。干ばつや地下水引き上げにより陸側の水が減少している状態で、海面上昇により海側の水が川や地下水を含む帯水層に海水が流れ込むからである。
バンコクは地下水の引き上げを抑制しており、深刻な水不足に対応するためシャワーの利用の抑制も呼びかけているが、ジャカルタ同様に地盤沈下は止まらない状況であり、今後ますます塩分濃度の上昇が予測されている。
水道水の塩分濃度が高くなれば、飲用など健康問題も引き起こしかねない上、稲作など農業にも悪影響を与える。これはバンコクだけの話ではなく、ベトナムなどメコンデルタ一帯で懸念されている問題である。
1,100万リットルの水を貯蔵できる屋上農園
こうした海面上昇や干ばつに伴う影響の対策として注目を集めているのが屋上農園である。毎年のように洪水が発生するバンコクでは、浸水に対する対策は不可欠である。地下のウォーターバンクもその取り組みの一つであるが、塩分濃度の上昇という観点では今ひとつである。
Landprocessが進める屋上農園プロジェクトは、コストはかかるが両方の問題を解決する手法の一つである。タマサート大学で進められている屋上農園は、23.6万平方フィートに渡り、棚田をイメージした水田で稲作を行えるだけでなく、300万ガロン(約1,100万リットル)もの水を溜め込むことができるため、灌漑に利用できる。
直接雨水を溜め込む「屋上ダム」であるため、
- 干ばつ対策
- 水の塩分濃度対策
- 屋内のヒートアイランド現象対策
など様々な利点がある。
参考文献[1]:Reuters, “Salty water in Bangkok is new ‘reality’ as sea pushes farther inland”, 10 Jan 2020
参考文献[2]:FastCompany, “This massive new rooftop farm helps keep Bangkok from flooding”, 13 Jan 2020