将来的な景気後退によるドル安などで、新興国通貨が高くなるという予想は自然なことである。AmBank Group Researchのチーフエコノミストであるアンソニー・ダス博士も、マレーシア・リンギットが2020年末に向けて対ドルで高くなるという予測を示している。しかし、それほど簡単なことだろうか。
リンギットは年末までに対米ドルで4.00RMに達する可能性:AmBank Research(The Edge Markets)
- 2019年のUSD/MYRは、国内問題などに関わらず1.1%上昇し4.09MYRで終了(平均は4.14MYR。高値4.06、安値4.22。)
- 2020年は、ドル安、人民元高、国内経済、堅調な原油価格、活況な資本流入などでリンギットの見通しは良い(2020Q1の4.11から2020年末に4.00)
- 逆に、米国の利上げ、政治的地政学的リスクがリンギット安リスク(2020年末に4.18)
地政学的リスクよりも政治リスク
産油国であるマレーシアにとって、中東の地政学的リスクはそれほど心配ではない。寧ろ安定的な原油供給国として原油が買われることになれば、リンギット高につながるだろう。そうすれば限界油田投資も生きてくることだろう。
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一番心配なのはマレーシア政府の動きである。元々マレーシアは中国経済との結びつきが強いので、上記記事の通り人民元との相関性が高く、中国経済が楽観的である限りはリンギット高トレンドは変わらないだろう。
しかし、今のマハティール政権はそこからの脱却を図って生まれたものである。しかし、ECRLについての強硬路線のトーンダウンなどを見てもわかる通り、財政面などへの影響から現実的には難しい状況となっている。
寧ろ、最近は親中新イランといった方向に行きつつあるように見える。最大の主要なパーム油輸出先であるインドを批判して中国の方を重視する動きをとったり、イランやトルコを味方につけてサウジアラビアとイスラム諸国における覇権争いを起こすような動きを見せたり、反米諸国との結びつきが強まっているのが実態である。
特に、インドがマレーシアからのパーム油輸入を抑制しようとする動きは重要で、中東情勢による漁夫の利よりも、寧ろ政治的リスクの方が心配である。