米国による5G問題における中国への強硬路線や中国による一帯一路構想などは貿易戦争といった「小さな」問題ではなく、各国がどちら側に着くかを決める米中覇権争いの側面がある。しかし、覇権争いという観点ではイスラム諸国においてもサウジアラビアとマレーシアの間にも存在する。
象徴的なのは12月18日から4日間マレーシアのクアラルンプールで行われたイスラム首脳会議でのサウジアラビアとパキスタンの欠席だ。マレーシアはOIC(イスラム協力機構)の56加盟国全てに招待状が送られたが、代表団を派遣したのは20ヶ国にとどまり、国家元首が代表団に名を連ねているケースは更に少ない。
サウジアラビアなどが欠席した理由は主に次の2つの問題がある。
- イランやトルコ、カタールなどサウジアラビアの敵対国の参加
- カシミール問題(印パ)やシリア・イエメン紛争、ロヒンギャ問題などが議題にあげられる可能性
- OIC(イスラム協力機構)の弱体化懸念
まず、サウジアラビアと対立するイランやトルコなど敵対国が参加することが大きい。マレーシアはトルコと航空・防衛に関する研究開発の連携協定を策定し、カタールとは乳製品の供給契約を結ぶなど、「反サウジアラビア国」との結びつきを強めている。
イランとトルコはここ最近の情勢の中で非常に良好な関係となっており、イスラム首脳会議でもロウハニ大統領は演説を行っている。演説では、イスラム諸国間で貿易協定を締結し、互いの通貨を利用した金融協力メカニズムの構築などを主張している。
これは米国などからの制裁の影響が強いが、イスラム金融市場が最も大きいマレーシアを中心に、金融協力を進めていくという動きは十分に可能性があり、無視できない主張である。
サウジアラビアと対立する国が多く出席するのであれば、こうした国によって都合の悪い2のような問題が議題にあげられる可能性が懸念された。直前までイスラム首脳会議での議題が掲げられておらずサウジアラビアは当初から難色を示していた。
ここでカシミール問題もあがっているが、パキスタンは同盟国であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦から出席しないように圧力をかけられたという疑惑もあがっている。
また、サウジアラビアはこうした問題を議論するにしてもOICで行うべきだと主張している。OIC事務局長ユースフ・アル・ウサイミン氏はAFPに対し、こうした集会がイスラム教徒を分断し、OICを弱体化させ、ひいてはイスラム教を弱体化させることにつながると批判している。
マレーシアのマハティール首相は、新たな「イスラム諸国のブロック」を作ることは意図していないと疑念を否定しているが、実質的にサウジアラビアとマレーシアにおけるイスラム諸国の覇権争いとなっており、今後激化する可能性はある。
参考文献[1]:AL ARABIYA, “Key Islamic powers shun Malaysian summit”, 18 Dec 2019
参考文献[3]:Channel NewsAsia / AFP, “Islamic body criticises Malaysia’s Muslim summit”, 19 Dec 2019