ハラールツーリズム(Halal Tourism)という言葉を知っているだろうか。ムスリムフレンドリーツーリズム(Muslim Friendly Tourism)という言い方もあり、意味的にはこの方が分かりやすいかもしれない。要するにムスリム(イスラム教徒)の信仰・生活様式に合った旅行を意味する。
IIHO(国際イスラムハラール機構サウジアラビア)の日本支部によると、ムスリムは大人数で長期滞在型の旅行をする傾向が強く客単価が高い。これにより大手の旅行関係企業はハラール仕様のツアーなどを企画し、後述するようにその市場は急速に成長している。
トムソン・ロイターのレポートState of the Global Islamic Economy Report 2018/19によると、2017年時点でハラールツーリズムの世界市場は1,770億ドルで、2023年には2,740億ドル(+7.6%)に成長すると予想されている。
2017年時点で世界で最も観光支出が多い国が中国(2,577億ドル)、次いで米国(1,739億ドル)である。(The World Bank)ハラールツーリズムの市場規模は全体で米国一国のレベルに過ぎないといえばそれまでだが、現時点では旅行先が限定的であり、需要を取りこぼしている国が多い。
そこにはムスリムはハラール対応が整備されていない国への旅行を敬遠しがちであるという背景がある。特に「飲食物」と「礼拝」に関して対応するのがハラールツーリズムの典型例である。
飲食物に関しては、ハラールメニューやハラールレストラン情報の提供に留まらず、大人数の場合は「機内の飲料販売ワゴンにアルコールを置かない」などアルコールを目に触れさせないようにしているツアーもある。(Globe+)
礼拝に関しては、礼拝場所の確保やギブラ(1日5回の礼拝を行う方向)の提供などである。日本に関して言えば、受け入れられるようなホテルは非常に少ないだろう。
5,000万ドルのバリエーションでプレシリーズA(シードとシリーズAの間)の資金調達を受けているハラールツーリズム専門の旅行予約サイトHalalBooking.comでも2019年10月5日時点で34ヶ国のホテルやツアーが登録されているが、日本に関しては入っていない。
上記トムソン・ロイターのレポートによると、最も伸びているセグメントが「ムスリムのためのプールやビーチ」(女性専用・家族専用)といったリゾートであり、HalalBooking.comでもビーチリゾートなどはピックアップされている。
ハラールツーリズムを行う人が多い上位10ヶ国は、
- サウジアラビア(210億ドル)
- アラブ首長国連邦(160億ドル)
- カタール(130億ドル)
- クウェート(100億ドル)
- インドネシア(100億ドル)
- イラン(80億ドル)
- マレーシア(70億ドル)
- ロシア(70億ドル)
- トルコ(60億ドル)
- ナイジェリア(60億ドル)
であり、GCCやMENAの国が目立ち、ムスリムの割合が高いインドネシアやマレーシアといった東南アジアの国も並ぶ。
マレーシアはイスラム金融の市場規模の割にはハラールツーリズムは遅れ気味であり、先日もマレーシア中央銀行のアブドゥル・ラシード・ガファー副総裁もハラールツーリズムを含むハラール業界では遅れ気味であり、国家的に推進しているとスピーチしていた。(BIS)
これに関して言えば、サウジアラビアの観光ビザ発給開始もハラールツーリズムが成長する要因であるし、ガファー副総裁は2020年の東京オリンピックも商機であると主張していた。
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日本に関して言えば一部の例を除けば、現時点では個々のホテルや飲食店がハラール対応しても大きな需要を取るのが難しい。機内食を含む食事やリゾート、礼拝まで対応すべき点が多いからである。対応できるとすれば旅行会社であり、大人数によるパッケージツアーなどで対応するのであれば日本の旅行会社もチャンスはあるかもしれない。
参考文献[1]:Thomson Reuters, “State of the Global Islamic Economy Report 2018/19”(PDF注意)
参考文献[2]:The World Bank, International tourism, expenditures (current US$)
参考文献[3]:BIS, “Abdul Rasheed Ghaffour: Islamic finance and halal industry – opportunity, impact, synergy”
参考文献[4]:IIHOジャパン「ハラール観光(ハラールツーリズム)」
参考文献[5]:Globe+「若きムスリムに照準 ハラールツーリズムがいま熱い」2019年3月6日