ウォルマートは世界で220万人もの従業員を抱え、米国人だけでも140万人存在する。しかし、米国人従業員のうち高校生は2.5万人に満たない。これは同業他社と比べても低い割合であり、ウォルマートは若い従業員確保のために新しい採用アプローチに力を入れている。
ウォルマートなどの大企業が多くの10代の従業員を採用する方法(CNBC)
- 高校生に無料の大学入学標準テストSATやACTの準備プログラムを提供し、大学の授業料の大部分を助成
- キャリアの早い段階で雇用するメリットは大きい(①採用コストが低い、②変な癖が無いので企業のニーズに合わせてトレーニングしやすい)
- 一方でティーンエージャーの労働者は以前に比べれば少なく(1970年代は10代の45%近くがアルバイトをしていたが、2018年は29%にまで低下)、雇用市場の変化の可能性など、プログラムの持続性には疑問
解説
ウォルマートは学生向け、企業向けの安価な教育プログラムLive Better Uを提供している。
記事でも一部紹介されているが、
- 無料のSATやACT準備プログラム
- 高校生への給付奨学金
- 6つの非営利大学の学費補助
- 無料の言語教育
- 大学院の学費補助
などを行っている。
Courseraなど営利事業としてのMOOC(ムーク)は、講義を誰でも無料で受講できる代わりに、単位として認定を受けるならそれなりに費用がかかるというビジネスモデルである。
一方でウォルマートが手掛けるLive Better Uは、プログラムとしては非営利事業であり、将来的な自社従業員の囲い込みのために行っている。
機械学習分野で高卒者に人工知能開発技術を身に着けさせるパープルカラー労働者とは方法論は異なるが、どちらも若年層を囲い込む手法である。
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$1 per day. For real.(1日1ドル。本当です。)というのがキャッチフレーズであるように、Live Better Uでは1日1ドルの授業料で学士を取得できるようにしている。
ウォルマートでの採用を意図しているだけあって、
- 経営管理
- サプライチェーン、輸送、ロジスティクスマネジメント
分野の学士号や準学士号を取得できる講座に力を入れており、他にもサイバーセキュリティや計算機科学などの先端分野の講座を提供している。
他にもスターバックス、マクドナルド、ディズニーなどが同様の教育プログラムを提供しているが、教育補助が潤沢である以上、実際にどの程度の人材が育成でき、どれくらい採用できるかが持続のためのポイントである。
また、記事でも指摘されているが、長期的に若年労働者が減少しており、その中で労働者を囲い込むための方法がLive Better Uである。
しかし、リーマンショックのあとは少し増加傾向にあるなど、やはり景気次第とも言える。今後景気後退によって若年層労働者の供給が増えれば、こうした取り組みの効果が低くなる可能性がある。
それでも学資ローンの問題を抱える米国においては、社会的意義は大きいだろう。
参考文献
[1]CNBC, “How Walmart and other big companies are trying to recruit more teenage employees”, 7 Sep 2019