「変革」は頻繁には起こらない

ポスト911、ポストアラブの春、ポスト311、この20年間に一体どれだけの変革が起きれば気が済むのか。ポストリーマンなどを含めれば、この種の「ある大きな出来事の後に世界の在り方が大きく変わった」という言説は非常に多い。

そして今度は「アフターコロナ」である。「後戻りはできない」という言説が支配的に見えるが、筆者はそうは思わない。「新しい生活様式」は定着しないでも書いたように、パンデミック後の世界は「パンデミックで死ななかった者」が作るのであり、その中に「生き方を変えない者」が一定数以上存在する限り、旧時代の文化は根強く残るのである。

人類の歴史から考えればあまりにも短いヒトの寿命においては、911にせよ新型コロナウイルスにせよ、その出来事は世界を変えるような大きな出来事に見える。しかし、歴史を振り返ってみれば「変革」や「革命」と呼ばれるような出来事はそう多くはなく、それが評価されるのはずっと後の話である。

例えば「ポスト311」と言う。東日本大震災は大きな犠牲者を生んだが、その後社会の在り方や価値観は大きく変わったと言えるのか。「マスメディアが信用を失った」とか「リスク管理の在り方が変わった」とか言われることが多い。しかし前者はインターネット勃興からの連続的な流れの話であるし、後者はせいぜい原発がなかなか動かないくらいだ。皆が低海抜地域を避けて済むようになったわけでもあるまい。

アフターコロナにしても同じだ。マスクを付けている人は未だ多いが、それ以外は元通りになりつつある。在宅ワークを今後も推進する企業はあるが、それとて最終的には「生産性」がどうなるかで決まるものだ。

そもそも、パンデミック以前から在宅ワークは可能なだけの通信インフラは存在したのだ。本当に在宅ワークが企業にとって合理的な働き方であれば、何故もっと早くから普及しなかったのか。在宅ワークにシフトするコストが大きいからか。勿論それもあるだろうが、本当に合理的ならば長い目で見ればそれくらいすぐにペイできるはずで、もっと早くに普及しなかった理由が分からない。

尤も、この筆者の見方は大きく異なるかもしれない。アフターコロナは今後50年後100年後から見た時に歴史に残るような大変革をもたらすのかもしれない。しかし、それは現時点では分からない。なぜなら冒頭の通り「変革が起こるぞ!」という言説は常にと言っていいほど出されており当てにならないからだ。常に「大地震が起こる」と言っている予言者のようなものだ。

「変革期」に生きる人間には、その時代が本当に「変革期」であるかは判断できず、それは後世の仕事である。

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