以前にも触れたが、ウーバー(Uber)のドライバーによる性的暴行事件などが大きく取り上げられているが、英米ではそもそもタクシーが安全な乗り物という認識が無く、評価システムがある分、既存のタクシーよりもウーバーの方が信頼できると考えている人もいる。
関連記事:ウーバーの問題はネットオークションの黎明期と似ている
ワシントン大学の著名な統計学者リバティ・ヴィタート氏は、ウーバーの死亡事故や性的暴行事件の数は、ウーバータクシーが走っている距離や回数からすれば、それほど驚くべきことではないと指摘している。
まず、2018年の米国では36,560人が自動車事故で命を失い、そのうち58人がウーバーによるものだが、正確に事故リスクを計算するには走行距離で考えなければならないとした上で、前者は3.2兆マイル、後者は102億マイルであり、
- 米国全体での死亡者数:1.16人/1億マイル
- 米国ウーバーでの死亡者数:0.57人/1億マイル
であり、ウーバーでの距離当たりの死亡リスクは全体の半分程度である。タクシーに関するデータは無いが、ウーバーのドライバーの運転が著しく危険とは言えず寧ろ相対的に見れば安全である可能性が高い。
そして性的暴行が問題になった英国についてだが、こちらは2018年にウーバーは13億回以上の乗車で3,045件の性的暴行が報告されている。これはタクシーの性的暴行事件の約20%を占めているが、今やロンドンでウーバーによる乗車が全体の30%以上を占めており、タクシー全体での性的暴行被害リスクよりウーバーの方が安全ということになる。
ウーバーのような新しいサービスや、非常に確率が低い事故が発生すると、それがセンセーショナルに報道されることにより、確率を高く評価してしまう認知バイアスが発生しやすい。これは例えば、
- 米国同時多発テロ事件以後に長距離自動車移動が増えて交通事故が増える
- 原発を止めて化石燃料利用を増やすことで大気汚染などによる死者が増える
- 店舗での買い物に慣れた人がオンラインでの詐欺ニュースを見て異常に危険なものと思い込む
などが典型例である。
タクシーなどは先行者が多くの既得権を持っている状態でスタートしているので、新しいサービスのウーバーでの事故や犯罪は尚更大きく報道されやすい。
しかし、もはやウーバー利用が一般化してしまった英米においては、件数が多くなるのは当然であり、そのリスクは他の自動車やタクシーによるリスクと比較すべきである。