ニッケルを巡るインドネシアと中国の結託(2)

2020年1月からのニッケル鉱石禁輸措置も国内産業高度化が目的であるが、今回の措置による影響は2014年とは少し違う。その背景にあるのが中国との関係である。

前回:ニッケルを巡るインドネシアと中国の結託(1)

インドネシアの中国投資受け入れ

2014年時点ではインドネシアにはニッケル精錬所が1つしか無かった。2014年の禁輸措置によって精錬所が増え、その数は11に増えている。そして、2021年までにインドネシアは30億ドルを創始して37の精錬所を操業することを目指しているが、その殆どが中国が資金を提供しているという。

その代表的なのがインドネシアで中国系移民Lim家が始めたコングロマリットであるハリタ・グループ(Harita Group)のニッケル事業である。

ハリタ・グループは以前からニッケルをはじめ多くの天然資源を扱っているが、新たにスラウェシ島の東沖にあるウォウォニ島でのニッケル採掘を目的とした子会社Gema Kreasi Perdana (GKP)の事業が注目されている。

chinadialogue紙によると、GKPを通してニッケル精錬所を運営しているが、この事業に対するGKPの出資は20%であり、残りの80%は中国のXinxing Ductile Iron Pipes(新興鋳管股份有限公司)の2つの子会社が出資しているものである。未だGKPは採掘を開始していないが、以前から道路や住宅などの整備を進めており、環境への影響などから地元住民は強く反発している。

インドネシアのニッケル鉱石輸出の98%が中国

インドネシアのニッケルをめぐる問題は中国だけの話ではない。インドネシアのニッケル禁輸措置についてEUはインドネシアをWTOに提訴する方針を示している。

これはパーム油をめぐってインドネシアがEUをWTO提訴する方針ことに対する反訴という側面もあるが、EUは中国が禁輸措置をするようにインドネシアに意見したという疑惑を呈しており、筆者もその可能性は高いと考えている。

インドネシアの ルフット・ビンサル・パンジャイタン海洋・投資担当調整大臣は、EUの疑念に対して以下のように反論している。

インドネシアのニッケル輸出の98%は中国向けであり、欧州のシェアは2%に過ぎない。つまり、中国の意向でニッケル禁輸が決まったわけではないということだ。いかなる国にもインドネシアの貿易政策は左右されていない。

Antara News

これは「(欧州に多くのニッケル鉱石を輸出しているならまだしも)たったの2%であり、98%も輸出している中国が禁輸するように言ってくるはずがない」という意味である。これはもっともらしいが、いくら産業育成のためとは言え、現時点でインドネシアのニッケル鉱石輸出の98%が中国という状態で、何も無しに全面的に鉱石の禁輸措置ができるはずがない。

前節で述べた通り、ここ数年中国によるインドネシアでのニッケル精錬所開発投資が進んでいることから考えれば、中国によるニッケル精錬所投資を受け入れる代わりにインドネシアがニッケル鉱石を禁輸措置するという取引だという見方の方が自然である。

今後の展望

2020年以降の展望としては、禁輸措置によって一時的にはニッケル価格は回復するかもしれないが、少し時期が遅れようと景気後退はそう遠くはなく、EV投資が一段落すれば価格下落の方向性に進むと考えられる。それでもインドネシアのニッケル埋蔵量は2060年頃までは足りると言われており、中長期的にはニッケル鉱石の精錬などの成長が見込まれる。

短期的にはフィリピンのニッケル生産や輸出が活況になると考えられる。但し、フィリピンのニッケル鉱石はインドネシアのものに比べ純度が低いので、単純に生産量や輸出量を見て過大評価しないように注意すべきである。

参考文献

[1] JOGMEC金属資源情報「世界のニッケル需給と今後の動向」2019年7月Vol49

[2]ロイター「インドネシアがニッケル鉱輸出を来年初めから全面禁止」2019年9月3日

[3]日本貿易振興機構「2020年にも世界一のニッケル生産国へ、インドネシアの禁輸措置が影響」2019年11月8日

[4]日本貿易振興機構「ニッケル業界が中国と覚書、インドネシアの禁輸措置見据え中国の巨大EV市場開拓へ」2019年12月3日

[5]日本経済新聞「ニッケル、3週ぶり高値 中国指標の改善を好感」2019年12月17日

[6]AntaraNews, “Nickel export restriction to help local industries: Luhut”, 18 Dec 2019

[]chinadialogue, “Nickel mining resisted in Indonesia”, 12 Dec 2019

[7]INSG, “The World Nickel Factbook 2018”, Dec 2019(PDF注意)

[8]INSG, “Production, Usage and Price”

[9]USGS, Nickel Statistics and Information

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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