要約
- 1月にRelativity Space社が米軍から3Dプリントロケットの打ち上げ許可を得た
- その僅か3週間後にOrbex社が3Dプリント製の宇宙ロケットエンジンを公開した
- 3Dプリンティングによって部品の数を減らすことが安全性を高める発想として興味深い
米空軍は3Dプリントロケットの打ち上げ場所を承認(Futurism)
- Relativity Space社が米軍から3Dプリントロケットの打ち上げ許可を得た
- ビルサイズの金属3Dプリンターを使った巨大なロケットの製造を予定
- 少ない部品安価に速く建造が可能で、1,250kgもの積載量実現するのが目標
英国のスタートアップが世界最大の3Dプリントロケットエンジンを披露(Futurism)
- Orbex社が3Dプリントで作られた二段式ロケットエンジンを公開した
- 接合部が無い単一の部品で作られ、従来品より30%軽く、20%効率的と主張
- 3Dプリンティング技術が民間宇宙事業の成長を加速すると予想されている
解説
最初の記事のRelativity Space社はSpaceX(テスラのイーロン・マスクによる創設)とBlue Origin(アマゾンのジェフ・ベゾスによる創設)が設立した会社である。米軍が1988年から利用していない打ち上げ場所での許可であり、打ち上げに成功した場合、20年間の独占契約を結べる可能性があるという。
そのわずか3週間後に発表されたのが後者のOrbex社のエンジンであり、続けて3Dプリンティングによるロケットがアピールされた形である。
記事では軽さや製造単価の安さも強調されているが、やはり「接合部が無い(seemless)」単一の部品であることが宇宙ロケットにおいては重要であろう。
というのも、ロケットには一般的に一つの部品や接合に99.9999%(six nines;断じて卑猥な意味ではない)の精度が求められる。例えば、「一度の打ち上げで壊れない確率は99%」と言われれば普通はかなり精度が高いように思えるが、部品が100個あったとすれば、
$$0.99^{100}≒0.366$$
とどの部品も壊れない確率は僅か36.6%と心許ないものになってしまう。(宇宙ではどれか一つでも壊れれば致命的である。)99.9999%の精度があってこそ、100個の部品があっても99%の精度を維持できるのである。
この問題を解決するために、従来のロケット技術では個々の部品の精度を徹底的に高めているわけだが、3Dプリンティングによる開発は逆転の発想と言える。そもそも一つの部品として作成してしまえば、壊れやすい部分が減るわけである。
実際、この取組みがどこまで実るかは現時点では分からないが、数多の民間宇宙事業の中でも、注目すべきものの一つになるだろう。
参考文献
Futurism, “U.S. Air Force Approves Launch Site for 3D Printed Rocket”
Futurism, “UK Startup Shows Off World’s Largest 3D Printed Rocket Engine”