ヘリウム不足が製薬業界に影響を与えつつある(2019年11月6日追記)

2012年頃にも一度深刻なヘリウム供給不足が問題となったが、2017年頃から再び問題が再燃している。ヘリウムの用途は風船だけでなく、半導体や医療など様々な分野で重要な物質であり、製薬業界にも悪影響を及ぼしつつある。

ヘリウム不足がパーティー産業と製薬産業に打撃を与えている(TIME)

  • 米国Party Cityが5月9日に45店舗の閉鎖を発表
  • 同社CEOはヘリウム不足が「ラテックスとメタリックバルーンのカテゴリーに悪影響を与えている」ことを理由の一つとして挙げている
  • 製薬業界で重要な核磁気共鳴装置(NMR)の超電導磁石の製造に悪影響を与えつつある
  • ワシントン大学のSophia E. Hayes教授は、核磁気共鳴画像法装置(MRI)のMRI磁石に使うヘリウムは初期充填だけなので、医療業界への影響は「もう少し遅れる」

解説

ヘリウムは空気中にも0.001%未満と僅かに 存在するが、液化温度が-269℃と絶対零度(-273℃)近いので、商業ベースで空気中から取り出すことは行われていない。天然ガスからヘリウムを抽出する方法が主流であるが、天然ガス田があり、かつ、採算が取れる抽出技術を持つ国となると少なく、下図のように米国が半数以上、次いでカタールとアルジェリアが多く、僅かにロシア、オーストラリア、ポーランドが供給しているのみである。

出典:みずほ情報総研(2015)

ヘリウムの用途は多く、記事中にも出てくる風船や超電導磁石、MRI磁石だけでなく、広く半導体産業や光ファイバーなど非常に多用途であり、新興国でのMRI装置の設置需要や光ファイバーケースの敷設など需要は増加し続けている。

一方で図を見て分かる通り、米国はヘリウム供給の減少が予測されているが、これは大家(2012)が指摘するように、米国はヘリウムの希少性・重要性を理由にヘリウムを「戦略的物質」として位置づけており、国家的備蓄を進めているという背景がある。

但し、産業によって影響を与える度合いに違いがあるというのが記事のポイントである。風船のようなパーティーグッズを扱う産業ではヘリウム価格が製品原価に占める割合が高く、既に深刻な影響が出ている。

NMRは高価な機器であり、ヘリウムが占める割合は相対的には少ないが、使われる超電導磁石のヘリウムは「消費される」ので、供給不足の影響を受けやすい。よって製薬業界への影響が出始めている。

一方で医療機関で使われるMRIの磁石は「最初に充填するだけで消費されない」ので、一度設置してしまえば大きな問題になりにくい。新たにMRI装置を設置する際には影響が出てくるが、各医療機関が通時的にヘリウムを必要とするわけではないので、悪影響が出てくるのが「少し遅れる」という見方がされている。

参考文献

TIME, “Helium Shortage Is Hurting Parties and the Pharmaceutical Industry”, 12 May 2019

みずほ情報総研(2015)「平成26年度製造基盤技術実態調査 ヘリウムの世界需給に関する調査」(PDF注意)

大家泉. “ヘリウム需給の見通し.” 高圧力の科学と技術 22.3 (2012): 185-190.

ヘリウムソリューション.com

2019年8月31日追記

5月に書いた当記事だが、最近になってアクセスが急増しており、2019年8月31日時点でアクセスランキングが1位となっている。

これは大陽日酸が、世界的なヘリウム不足を受け、2020年を目処にヘリウム出荷価格を2-3割値上げするという報道によるものと思われる。

参考:ニュースイッチ(日刊工業新聞)「ヘリウムついに値上げ、世界規模の需給逼迫で避けられず 大陽日酸、来年めど2-3割」2019年8月22日

2019年9月20日追記

ヘリウム不足の緩和についての見通しが出てきたので別記事を執筆した。

ヘリウム不足の緩和は来年以降の見通し

2019年11月6日追記

昨日からまたアクセスが急増している。ヘリウムの安定供給を求めて、日本物理学会などが政府にヘリウムの安定供給を求める声明を出す方針を示したからと思われる。重要な部分を引用しておく。

ヘリウムの輸入会社は、医療機関や工業製品のメーカーには優先的に供給していますが、研究開発用はすで不足していて、一部の研究が行えなくなるなど影響が出ています。

このため、日本物理学会などの関係する学会は、このままでは研究開発が進まなくなるだけではなく、製造現場や医療にも大きな影響を与えるとして、緊急声明を出してヘリウムの安定供給に国をあげて取り組むよう訴えることにしています。

日本経済新聞「ヘリウムの安定供給求め 関係学会が緊急声明発表へ」2019年11月5日
       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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