OPEC+原油増産合意で原油価格が上昇する背景

上昇傾向だった原油価格も、欧州でのロックダウン再開などで警戒感が続いていたが、OPEC+の原油増産合意により、原油価格は上昇することになった。

参考:ウォールストリートジャーナル「OPECプラス、増産で合意 3カ月で段階的に」2021年4月2日

こうした「直感と逆をいく」ことがよくあるのは投資家なら当然知っていることだ。今回の原油価格上昇に関しも「幾つかの解釈」ができる。複数の解釈が可能な時点でそれは雑な説明ではあるが、新聞などでは適当なコメントが載せられているものなのだ。ここでは、そのパターンを例示するイメージである。

良い景気見通しによる好感

米国の長期金利が上昇している事とも関係しているが、IMFがワクチン接種の進展などにより世界経済見通しを上方修正するなど、景気に対して楽観的な見通しがある。増産という判断には「需要増加」という裏付けが必要であり、それだけOPEC+が景気動向を良いと考えているということである。

参考:ブルームバーグ「IMF、世界経済見通しを上方修正へ-米経済対策やワクチン普及で」2021年3月31日

供給増加という側面だけ考えれば価格低下に働くが、それだけ需要増加も期待でき、価格上昇につながったというのが第一の解釈だ。

増産の「実現」による不確実性低下

2月頃からサウジアラビアは増産を計画しているという報道がされていた。いつかは増産に転じるというのが時間の問題でも、それが「いつになるか」というのはリスク(不確実性)である。実際、ロックダウンの影響もあるが、増産計画によりボラティリティが高まっていた傾向もみられる。

参考:ウォールストリートジャーナル「サウジ、原油増産を計画 減産から一転」2021 年 2 月 17 日

増産が「実現」したとなれば、その分だけ不確実性が減少したということになり、買いが増えたと考えるのも妥当な解釈の一つだろう。

格言的に「噂で買って事実で売る(ここでは噂で売って事実で買う)」という言葉があるが、これは期待を先取りするという意味合いが強いが、「事実」には不確実性の減少という側面もある。見方を変えれば「悪材料出尽くし」と言っても良い。

米シェールガス生産の軟調

原油価格が上昇してきているが、米国におけるシェールガス生産は軟調である。これはテキサスの停電で供給が停まっていたということもあるが、環境を重視するバイデン政権が規制に動くという予想も強く、原油価格が上昇する中でもシェールガス生産が伸びていないという現状がある。

参考:日本経済新聞「[FT]米でシェール開発再開、メタンガス排出再び増加」2021年3月31日

原油価格が低すぎるとシェールガス生産は利益を出せないが、シェールガス生産が活況な状況では原油価格の上値を抑える働きもある。シェールガスが軟調な状況でOPEC+の増産は、それだけ原油市場にとってはポジティブな状況と考えられる。

スーパーサイクル理論の連想

IEAは否定的見解を示したが、スーパーサイクル理論を連想する動きは未だ少なくない。原油生産は、原油価格が上下したからと言って簡単に増減できるものではなく、需要の増減に対する供給の増減にラグが発生しやすい。

 JPモルガンなどは、電気自動車普及など「将来的な原油需要減少予測」や「新型コロナウイルスによる原油需要減少」などの影響を受けて原油供給が減少していた中で、良い景気見通しで需要が増えている状態で、需給にミスマッチが生じるというスーパーサイクル理論を提示しており、100ドルに到達するという予測もある。

参考:Financial Times, “Oil ‘supercycle’ predictions divide veteran traders”, 16 Feb 2021

参考:ロイター「IEA、原油相場のスーパーサイクルに否定的見解 供給は潤沢」2021年3月18日

ロックダウンやワクチン接種が進まないリスク、突然変異によるワクチン効果への懸念など、原油需要を押し下げるリスクがある中で、(在庫も減っている中で)増産に転じるということは、やはり供給が追い付いていないという見方ができる。

100ドルまでいくかは筆者も不明だが、まだ原油価格の上昇が止まったわけではないというスタンスを取っている。

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