欧米メディアではフェムテック(Femtech)という言葉が頻繁に出るようになってきており、定着しつつある用語となった。(フィンテックFintechではない。)
フェムテック(Femtech)は女性(female)と技術(technology)の造語で、女性特有のヘルスケア上の問題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指す。
例えば出産や加齢に伴う尿漏れなどを防止するために骨盤底筋トレーニングを補助するウェアラブル端末Elvie Trainerや、生理用品の定期購入サービスを手掛けるCORA、生理周期の予測アプリClueなどが代表的である。
参考:The Bridge「女性向けウェアラブル「骨盤底筋体操デバイス」を開発するElvie、600万ドルを調達」
参考:elvie公式サイト
こうした用語の定着や投資の拡大は一見すれば良いことである。女性起業家は一般的に資金調達に苦労する傾向があり、男性が気づきにくい女性特有の健康問題に特化したビジネスの担い手が増えることは社会的にも経済的にもメリットが大きいはずだ。
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しかし、知的財産権に関する運動を行うOpen Rights Groupの元常任理事であり、エイダ・ラブレス・デーを作ったスー・チャーマン・アンダーソン氏は、フェムテックは諸刃の剣になることを危惧している。(エイダ・ラブレス・デーは、世界初の女性プログラマーとも呼ばれるエイダ・ラブレス氏(1815-1852)を称える日である。)
その理由が「女性ベンチャーキャピタリストだけが投資をし、女性起業家だけがビジネスを担い、女性だけが買うもの」になることだという。
アンダーソン氏も積極的に男性投資家にフェムテック製品を売り込んでいるが、なかなか男性が公言しにくい事項であり、投資を得られにくく、また宣伝してくれる有名人も集まらないという。例えばウェアラブル授乳ポンプといった製品がその代表例で、男性が宣伝するのは場合によってはセクハラとも捉えかねられず、なかなか難しい問題である。
アンダーソン氏は、世の中の約半数が女性であり、決してニッチなビジネスでないにも関わらず、女性のソリューションにだけ「女性(female)」とラベル付けをすることを問題視している。男性のヘルスケア製品に対し”mentech”という用語はついていないとも言う。
女性を特別扱いせよという傾向が強い日本のフェミニズムより1歩も2歩も先に進む英国などでは、一見男女平等に寄与しそうな女性の扱いも差別的であるとし、真の平等を求める傾向にあるのが最近の流れである。英国では女性専用車両が大反対によって廃止されたことがあるというのは有名な話だ。
成長には用語だけの問題ではなく、生理や妊娠、避妊といったセンシティブな情報を扱うビジネスの性質上、データ保護やプライバシーといった問題もある。例えばRosas (2019)は、米国のHIPPA法(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996:医療保険の携行性と責任に関する法律)がフェムテックに関する問題を十分に網羅できないことを指摘し、法律の適用範囲の拡大などを主張している。
今のところ、(どこまでを指すのかが曖昧だが)フェムテックと呼ばれるものの市場は小さい。成長が著しく2025年までに500億ドル市場になると言われるが、世界人口の半分がターゲットになるビジネスとしては小さい。
参考文献[1]:BBC, “Femtech: Right time, wrong term?”, 8 Oct 2019
参考文献[2]: Celia Rosas, The Future is Femtech: Privacy and Data Security Issues Surrounding Femtech Applications, 15 Hastings Bus. L.J. 319 (2019).
Available at: https://repository.uchastings.edu/hastings_business_law_journal/vol15/iss2/5