要約
- 女性の方が男性より投資家の割合が低い
- 女性が投資をしない理由としては知識・リテラシー面を挙げる人が多い
- 先行研究でも金融知識により性差が無くなるという報告もあり、一概にリスク回避的とは言えない
日本人女性の投資姿勢
フィデリティ退職・投資教育研究所がレポート「女性の投資姿勢:水準よりも変化に注目 ~2010年-2018年のサラリーマン調査の追加分析」を公表した。この調査は2010年から断続的に行われており、一連の内容をまとめたものである。要約は以下の通りである。
- 投資家比率は男性が40.1%、女性が23.5%と女性が低い
- この差は年収差も関係している可能性がある
- 投資へのポジティブなイメージは、男性の35.5%に対し、女性は26.7%と保守的
- 投資をしない理由としては、女性の方がリテラシー面を挙げる割合が高い
- 年を追う毎に積立投資への理解が進んでいる
- 女性の投資へのイメージも改善している
- 40歳以上と未満で投資への考え方に断絶がある
- NISAでのオンライン証券利用は女性の方が少ない
投資家比率が異様に高いのは、ここでの投資に確定拠出年金が入っているからである。下図の調査結果概要を見た観じでは、男女での投資家比率に大きな差もあるが、レポートの通り年収差も大きく関係している可能性がある。(資産は世帯別のデータなので男女差が無い。)
興味深いのは「投資をしない理由」について、女性の方が「色々勉強してから」「何をすれば良いのか不明」という「知識」に関するものを理由と挙げる割合が高い点である。これは年々その傾向が増えており、下図の通り「資金」を理由とした理由が減少しているが、「知識」関連は近年上昇傾向にある。
これだけでは「女性の方が投資リテラシーが無い」のか「女性の方が投資リテラシーが無いと思っている」のかは分からないが、少なくとも下図の通り、女性の方がオンライン証券の利用が少なく、銀行を利用する割合が高い事に現れていると考えられる。
先行研究との比較
従来、女性の方がリスク回避的であると言われてきた。これは例えば『競争の科学——賢く戦い、結果を出す』5章で指摘されるような、男性(オス)が子孫を残すために積極的にリスクを取って競争して女性(メス)を獲得する一方で、女性(メス)は妊娠・育児という環境からリスク回避的になるという生物学的な説明が有力であった。
投資に関しても同様で、例えばCharness, Gary, and Uri Gneezy(2012)は、15もの別個の投資ゲームの実験データを性差について調整して再構成することで、女性の方が投資額が少なく、財政的にもリスク回避的であることを示している。
一方で性差で説明できないとする報告も複数挙がっている。
Dwyer et al. (2002)は、2000ものミューチュアルファンドへの投資家について、投資に対する意思決定要因を分析すると、全体では女性の方がリスク回避的であることを示すものの、金融知識で調整すると性差は大幅に弱まることが示されている。また、Goldsmith et al. (2006)は、122人の学生からの調査により、女性の方が男性よりも投資に対する知識が少ないことを示しており、性差は教育段階から生まれていることを示唆している。
紹介した研究の調査対象は全て海外のものであり、日本の投資家を対象とするフィデリティ退職・投資教育研究所のレポートと直接比較することの問題は承知だが、日本においても投資に対する知識・リテラシー面での差がリスク選好の性差に繋がっている可能性はある。
投資リテラシーが無いからリスク回避的になるのか、生得的にリスク回避的だから投資リテラシーを身に着ける人が少ないのか、はたまた家庭教育の男女差が投資リテラシーの差を生むのか、様々な仮説が考えられるが、一概に女性の方が投資に対してリスク回避的であるとは言えないようである。
参考文献
フィデリティ退職・投資教育研究所(2019)「女性の投資姿勢:水準よりも変化に注目 ~2010年-2018年のサラリーマン調査の追加分析」(PDF注意)