2017年にセントルイス・カージナルスがチケットのサブスクリプションを導入して以来、
メジャーリーグ(MLB)で同様のシステムが広がりつつある。過去2回の実験を経てミネソタ・ツインズが 、更につい先日ニューヨーク・メッツも今年2019年よりサブスクリプション方式の正式導入を発表した。
日本でも大きく話題になっているサブスクリプション方式は、当初はデジタルコンテンツなどが中心だったのが、今や様々なビジネスに拡がっている。どれも月額で使い放題という点では共通しているが、その狙いは次の3つであるケースが多いように思われる。
- 囲い込み
- 低コスト商品のサブスクリプションから高単価商品の購入
- エントリーユーザーのお試し
の3種類に分けられると思われる。
囲い込みは2と3のケースにも該当するのであまり良い分類ではないが、どの点に特化しているかという観点で例示する。1はマッサージの受け放題など、単純に使い放題を強く売りにして顧客を囲い込む事に重きを置いたものだ。2は囲い込みとも関連するが、居酒屋の飲み放題など原価が安いアルコールで誘引し、より高単価の食事メニューを頼むインセンティブを与えるものが挙げられる。3はブランド物の借り放題(気に入れば買い取りも可)など高単価商品の利用や購入のハードルを下げるものがある。
MLBで導入されているサブスクリプションは上記の3つの狙いもありつつ、新たな付加価値もある。
カージナルスは月額29.9ドルでホームゲームを立ち見席で好きなだけ観戦できる。ツインズは3種類用意しており、年間294ドルの分割払い(月当たり42ドル)で立ち見席、年間494ドル(月当たり70.6ドル)で上段席、年間894ドル(月当たり127.7ドル)で下段席でホームゲームが観放題だ。メッツは月額39ドルでホームゲームを立ち見席で観放題だが、平日なら座席へのアップグレードも可能となっている。
まず3チームとも立ち見席の観戦し放題を中心としており、エントリーユーザーへのハードルを下げる効果がある。例えばツインズなら3つのプランに該当する座席の1試合のチケット価格は25~70ドルだが、サブスクリプションなら月に2試合行けば余裕で元が取れる。ツインズの場合、2004年以来初めて年間の観客動員数が200万人を切っており、新規顧客(特に若年層)を呼び込むのが焦点となっており、最終的にはファンの囲い込みも意図されているはずだ。
下段席と上段席のサブスクリプションの場合は、空いている席がランダムに割り当てられる(同伴者は隣り合う)ようになっており、売れ残りの安売りという意味合いもある。ちなみに「空き座席が無かった場合はどうなるのか」という質問に対してはツインズの社長デーブ・ピーター氏は「それは嬉しい悲鳴だ」とコメントするように、かなり深刻な状況であることは伺える。
そして、エントリーユーザーのハードルが下がるだけでなく、メッツの「平日は座席へのアップグレードも可能」という方式は、高単価サービスへのシフトの意図も見られる。
チームによって少しずつサブスクリプションモデルの狙いが違うことが分かるが、概ね既存のメリットが網羅されているように思える。しかし、MLBの場合は3チームとも新しい付加価値「気分によって色々な場所で観戦できる」というメリットがある。
実際、ツインズのピーター氏は以下のように述べている。
(サブスクリプション方式の導入は)ファンの調査に基づいてできました。新しい世代のファンは、単に球場にアクセスしたいだけでなく、様々な場所から観戦したかったり、Bat & BarrelやHrbeks(いずれの場内のバー)に出入りしたかったりするのです。
StarTribune
要するに立ち見席のサブスクリプションは、購入へのハードルを下げるだけが目的ではなく、色々な場所で観戦できたり、場内をウロウロできること自体が付加価値となっているわけである。
明言はしていないがカージナルスの立ち見席のサブスクリプションも、内外野の様々なバーやテラスなどで観戦できるようになっており、気分に応じて行く場所を変えられる。メッツのサブスクリプションから座席へのアップグレードも同様の効果を生むと考えられる。
観客動員数の減少が強く問題視されているMLBにおいて、サブスクリプションは今後も拡がっていくと考えられ、そこにはサブスクリプションモデルの新たな付加価値のヒントも多く含まれていると考えられる。
参考文献
cardinals.com, “Cardinals Launch Ballpark Ticket Subscription Service”
CNBC, “NY Mets launch new ticket subscription deal for 78 home games”