新興国の物流事情:Agility Emerging Markets Logistics Index 2019を読む

クウェートの大手物流会社アジリティ・ロジスティクス(Agility Logistics<AGLTY:DFM>)は3月11日にAgility Emerging Markets Logistics Index 2019を公開した。これは、Transport Intelligenceが2018年10~12月に500人以上の物流業界の専門家に対して行った調査で、50のエマージング国の物流市場の動向と見通しをまとめたものである。

発表元がクウェートの物流企業であることから、調査対象企業も中東地域に偏っていると思われ、順位を見れば分かるが、やや中東地域にバイアスが掛かっている事に留意する必要があるが、各国がなぜ注目されているかを俯瞰することができる。 本記事では、インデックスの上位を中心にその内容をピックアップして紹介する。

調査対象国とインデックスは以下の通りである。順位は総合(Agility Emerging Markets Logistics Index)の順番であり、その内訳として「国内物流」「国際物流」における事業機会についての評価と全体的な事業環境であるビジネスファンダメンタルズが存在する。昨年のレポートも利用して順位変動も示している。

Agility Emerging Markets Logistics Index 2019
出典:Agility Emerging Markets Logistics Index 2018,2019より筆者作成

中国・インド・UAEら上位7ヶ国は安定して高い順位に位置している。中国は確認できる限りで同調査で2013年から1位が続いており、米中貿易交渉や経済成長鈍化などのリスクが意識されつつも、やはりマーケットとして魅力的であることには変わりない。100万人以上の都市の数は、米国の10に対して中国は156と多く、アリババやJD.comなどEコマースの成長に伴う物流市場の成長が期待されている。2位のインドも総選挙の不確実性があるものの、中国と同様に豊富な人口と高い経済成長率に期待がかけられている。

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3位のUAE(アラブ首長国連邦)は、物流市場自体よりも外資系企業のために用意された自由貿易地域(Free Trade Zone)における免税など優遇された事業環境が高く評価されている。

4位のインドネシアも多くの人口と今後の経済成長に期待がかかり、外資規制も緩和の方向にあることが高い評価に繋がっている。但し、17,000もの島々と深刻な渋滞によるラストワンマイル問題が一番の懸念である。

5位のマレーシアもUAEと同様に外資系企業にとって良い投資環境であることが評価要因であり、ビジネスファンダメンタルズではUAEに次いで2位である。また、景気も回復傾向であることが評価ポイントとなった。8位のカタールもビジネスファンダメンタルズが高く評価されている。

6位のサウジアラビアは、脱原油依存を目指したVision 2030(2030年までに石油以外の収入を10倍にする目標)において、3大陸を結ぶ物流拠点として位置づけることを目標としており、積極的なインフラ開発、自由貿易、工業地帯開発を進めているのがポイントだ。9位のトルコも同様に地理的なメリットによる物流市場の潜在性が高く評価されている。

メキシコはビジネスファンダメンタルズは23位と低いが、国内経済の発展と自動車など高付加価値産業の輸出などが高く評価されている。また、NAFTAの再交渉もUSMCAに置き換えることで合意したことにより、外国直接投資も全体的に増加傾向にあることも高い評価に繋がっている。

2018年から9も順位を上げた10位のベトナムは、ホーチミン、ハイフォン、ダナンなど全国160以上の港湾のネットワークを活かした国際物流の顕著な伸びが高く評価されており、商品貿易の伸び率は世界で5番目の高さを記録した。これは米中貿易交渉を背景としたチャイナ・プラス・ワンの動きにも関連していると思われる。但し、比較的外資規制が厳しく、ビジネスファンダメンタルズで20位にとどまる原因である。

ブラジルは2018年の9位から15位へと大きく順位を落としている。この理由としては、

  • 政治的リスク
  • 天然資源の少なさ
  • 製造拠点の開発が思うように進んでいない
  • 事業環境が良くない(ビジネスファンダメンタルズで39位)

が挙げられている。一方で人口や将来的な経済成長に対しては楽観的な見方が多く、国内物流に関しては4位と高い。

他に、全体的な傾向としては以下のようなものが挙げられる。

  • 中小企業の方がより新興市場での成長期待度合いが高い
  • IMFの新興国市場の予想経済成長率5.1%が「恐らく正しい」と考える企業は55.7%
  • 新興国市場の金融危機が「起こりそう」「とても起こりそう」と考える企業は47.1%
  • 米中貿易戦争が取引量を10.4%減少させる可能性
  • 一方で東南アジア市場は貿易戦争で利益を得る可能性が高い
  • 74.8%が米国のイラン制裁が物流市場・投資先としての可能性が減少または排除したと回答(イランは全体で37位、国際物流で49位)
  • 70%が新興市場は「Brexitの影響を受けない」もしくは「Brexitの恩恵を受ける」と回答
  • Brexitのデメリットとしては、58.9%が「離脱後の貿易交渉で英国から譲歩を求められるリスク」が挙げられている

やはり、多くのデータと共通し、東南アジア市場は米中貿易交渉から利益を得る可能性が高いという見方が示されている。また、多くの物流企業は新興市場はBrexitの影響を受けないと考えているということも興味深い。

本記事では各国の動向を中心に見たが、他にもレポートでは

  • 国内物流
  • 国際物流
  • Eコマース
  • 一帯一路

など多くの各論が取り上げられており、内容は盛りだくさんである。

参考:Agility Emerging Markets Logistics Index 2019

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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