ベトナムは4月18日時点で268人の新型コロナウイルス陽性者数が確認されており、死者は未だゼロである。検査数は206,253件、100万人当たりの検査数は2,119人と決して多いわけではない(日本は100万人当たり880人)が、その感染者数は少なく、死者も出ていないということで、封じ込められている国の一つしてメディアでも取り上げられることがある。
その理由はいくつか考えられるが、他国が必ずしも参考にできるとは限らないものである。
高齢者が少ない
散々報道されているように、新型コロナウイルスは高齢者にとって致死率が高いウイルスであるが、若年層にとってはそうではない。若者が亡くなった例がセンセーショナルに取り上げられるが、確率で言えば非常に低く、多くの若者にとってはそれを気にしていると生活できない。
ベトナムはそもそも高齢者が少ないのである。以下はベトナムの人口ピラミッドを示しているが、新型コロナウイルスの致死率が高くなる65歳以上人口が非常に少ないことが分かる。これは1975年まで続いたベトナム戦争のせいであり、終戦時に20歳だった人が今65歳であると考えれば、この人口ピラミッドの形状に納得がいくだろう。
そもそも高齢者が少ないのであれば、新型コロナウイルスで死者が発生する確率はかなり低くなる。高齢化が進む多くの先進国にとっては人口ピラミッドは真似できないが、とにかく高齢者が感染しないように政策を進めるといった対策は取れるはずである。
早期からの入国規制
ベトナムは共産主義国家であるだけあり、緊急時の強硬な動きはとにかく早い。外国からの入国規制は早かったし、国内では現在も強硬なロックダウンを行っている。国内で感染が大幅に拡大するような事態にはなっておらず、検査件数から考えても感染率は非常に低いように思える。
一方で、ロックダウンにより仕事を失う人など経済的な問題は多く発生している。国や民間での食料配給などは行われており、現時点ではそれで当面の問題を乗り切ろうという体制である。
それとは別に昨年から続く干ばつに伴う水不足により、電力問題や農作物への影響が発生しており、新型コロナウイルスが収束しても経済への悪影響は多く残ると考えられる。コロナだけが問題ではないということには注意が必要である。
結核と新型コロナウイルス
これはやまもといちろう氏も指摘しているが、ベトナムは嘗てほどではないが結核罹患率が高く、新型コロナウイルスの封じ込めに成功していると言っても、あまり参考にはならないというものだ。
一方で、ベトナムはもっと恐ろしい感染症である結核のハイリスク国で、しかも対策に失敗し、例によって台湾がベトナムの結核対応に協力を施しているうえ、悪いことに標準治療薬が効かない多剤耐性結核の罹患率が高くなっているため根絶が大変むつかしい状況に陥っているのもまた事実です。
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対策が進んできている一方、2018年の10万人当たり結核患者数は182.0人と日本の約7倍というハイアベレージです。これがどのくらい問題なのかというと、いま新型コロナウイルスの感染率が最も高いのは、インド洋の観光地モーリシャスであり、人口およそ127万人に対して判明している感染者が319人、死者が9人で、人口10万人あたり25.1人となっています。
「結核を減らせない」ベトナムがなぜかコロナウイルス対策の成功国に祀り上げられてしまう
一方で、結核罹患率の高さは新型コロナウイルスの死亡率の低さを裏付けるものの一つとも言えるかもしれない。
日本や東ドイツなどの新型コロナウイルスの死亡率が低い理由について、BCG仮説がある。これは、強毒株(日本株やソ連株など)のBCG接種を行う国の死亡率が低く、次いで弱毒株(デンマーク株など)のBCG接種を行う国の死亡率が低く、BCG接種を行わない国の死亡率が高いという相関関係を指摘するものだ。
そして、これと関係して「結核罹患者が多い国では新型コロナウイルスの死亡者が少ない」という傾向も報告されている。もしかすると、結核の多さが新型コロナウイルスの重症化を抑制しているという可能性は否定できないだろう。但し、あまり喜べる状況ではない。