アビガンに期待し過ぎない方が良い

富士フィルムが開発した抗ウイルス剤というだけあって、マスコミは新型コロナウイルスに対する期待が強い。富士フィルム<TSE: 4901>株は一時の高値からはやや落ち着いているが、それでも3月初めの暴落以前の水準を保っており、投資家の期待が強いことは事実である。

日本人的には日本企業発のアビガンが世界を救うというストーリーは大変好ましいが、投資家の判断としてはそこにバイアスがかかってはならない。そして筆者は現時点ではアビガンの効果には懐疑的である。多くの投資家はその点を理解しているとは思うが、マスコミに踊らされて「大量投与せよ」といった乱暴な意見も散見されるので、注意を促したい。

まず、催奇形性などの副作用の問題が指摘されるだけでなく、アビガンに期待されるのはあくまでも「軽症者」への効果である。軽症者と言っても一般的なイメージとは異なり高熱で一歩も動けないレベルを含むのだが、問題はその効果である。

武漢大学らのチームの研究結果において「軽症者に限ると投与後7日以内の回復率が7割を超えた」など好意的な報道がされたが、そもそも新型コロナウイルス患者の大半は回復するのである。対症療法よりも効果があり、かつ副作用など長期的な悪影響を除いても尚アビガンを投与するメリットがあるか否かを検討するには、より慎重で多症例による治験が必要となる。

毎日新聞「新型コロナに「アビガン」 軽症者7割、7日以内に回復 中国・武漢大など」2020年3月24日

実際、別の中国からのアビガン有効性を示す論文は撤回されている。これは中国がアビガン後発薬を売ろうとしたところに、日本がアビガンを備蓄して無償提供すると発表したことで、その「商業的な目論見が崩れたから」という指摘もされているが、直接的な撤回理由としては「アビガン投与群の方が若くて痩せている」などサンプルの偏りが挙げられている。

もちろん今後も日米を始めとしてアビガンを用いた臨床試験が実施・実施予定となっており、その結果が待たれるが、それが出てくるのは6月末の予定となっている。

富士フィルム「抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠」米国で新型コロナウイルス感染症患者を対象とした臨床第II相試験を開始」2020年4月9日

まだ2ヶ月以上先であり、それまでに他の不確定要素があまりにも多く、今から備えるには気が早い。夢がある銘柄ではあるが、大きなポジションを取るのは博打であろう。

また、「有望」な薬剤は他にも多く存在する。その候補については感染症専門医である忽那賢志氏が分かりやすくまとめてあるので非常に参考になる。

忽那賢志「レムデシビルで重症例の68%が改善 現時点での新型コロナ治療薬の候補は?(2020年4月12日時点)」

そのすべてが現時点ではどうなるか分からないが、いずれにしてもアビガンだけに期待するのは明らかに冷静な判断ではないことは分かるだろう。

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