ここ最近、マレーシアの国営通信社であるベルナマ通信社(Bernama)が国内のヘイズ問題を小さく見せようとする動きが多い。ヘイズ問題が長引けば観光業など経済的にも悪影響が出てくるからである。
その端緒と言えるのが先日11日に、専門家の意見を介して「ヘイズの経済的な影響はまだ出ておらず、モンスーンの吹き方が変わることで緩和される見通し」が報じられたことである。
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その時点でも大気質指数は殆ど変わらない汚染状態を示していたし、マレーメール紙もクアラルンプール中心部一帯が真っ白な状況を伝えていた。
マレーシア政府がヘイズ問題の火消しにかかるのは、観光だけの問題ではなく、ただでさえ打撃を受けているパーム油市場に追い打ちを与えかねないからだと考えられる。
23日にはテレサ・コック一次産業大臣は、
- ヘイズ問題が発生する度にパーム油業界を批判するのは不公平
- 現在のヘイズ問題を引き起こした森林火災はエルニーニョ現象によるもの
- 大規模プランテーションは、持続可能なパーム油開発の認証(RSPOまたはMSPO)を取得しており、野焼きは実施していない
- 一部の小作農が野焼きを行った可能性はあるが、それに大企業が関与しているとは言えない
という趣旨のことを記者団に対して語っている。
参考:Bernama, “Unfair to blame oil palm industry for haze”, 23 Sep 2019
環境問題への懸念からEUはマレーシアやインドネシアからのパーム油輸入を抑制して大打撃を受けている。インド市場などへの輸出から輸出量は昨年を上回っているが、価格低下によって輸出額は下落するという状況である。
マレーシアもEUなどへの働きかけやWTOへの提訴を検討しているが、これ以上パーム油産業とヘイズが結び付けられるのは避けたいと思われる。
もう一つベルナマ通信社の火消しが、24日の”Haze: Air quality in three areas improves from ‘unhealthy’ to ‘moderate'”(ヘイズ:3つの区域の大気質が「不健康」から「中程度」に改善)という記事である。
参考:Bernama, “Haze: Air quality in three areas improves from ‘unhealthy’ to ‘moderate'”, 24 Sep 2019
これは、サラワク州のスリアマン、ペナン州のバリック・プラウ、ジョホール州のバトゥー・パハトの3箇所の大気質指数(AQI)が90台(中程度は50-100)を記録したという報道である。(AQIについては以下でまとめている。)
ここ数日、ヘイズの改善傾向がこの記事以外にも度々報じられているが、殆どの地域はまだまだ汚染状態である。90台を記録したというのも午後11時の話であり、日中は120-150程度に達している地域が多い。
もっとも、記事の後半では他の地域が依然として汚染状態であることを示しているが、大半の見出ししか読まない人にとっては改善傾向を印象づけるものと言える。