【ペナン】共生細菌ボルバキアでデング熱を媒介する蚊を「置換」

マレーシアペナンのチョウ・コンヨー州知事は、デング熱を媒介するネッタイシマカの個体数を減少させるために、ボルバキアという共生細菌を感染した蚊を放つプロジェクトを開始したと発表した。

Bernama, “Penang releases Wolbachia-infected mosquitoes to combat dengue”, 23 Feb 2020

ボルバキアは人体や動物には無害な細菌であり、デング熱やジカ熱などウイルスを媒介する蚊を減少させるための手法として注目されており、今までブラジルやインド、米国などで実験が行われている。これらの実験は「病気を媒介する蚊を削減すること」が主眼であったが、マレーシアの例は「病気を持つ蚊をボルバキアを持つ蚊と置換すること」が主眼である点で新しい。

ボルバキアに感染したオスの蚊は子孫を作ることができず、ボルバキアに感染したメスの蚊は子孫もボルバキアに感染している。蚊を減少させるためには効果的にオスの蚊だけを放つ必要があった。一つは卵の大きさで見分ける方法で、2014年のブラジルなどで実験が行われている。

もう一つの手法として重要な成果をあげているのがZhiyong Xiらの研究で、放射線照射することでオスの生殖能力を保持したままメスを除去する方法がある。

nature asia「【感染症】ヒトスジシマカの根絶を目指した二重の処置」2019年7月18日

しかし、蚊の個体数を純粋に削減してしまうのは、間接的な環境への影響など不透明な部分があるとも指摘される。

マレーシアのプロジェクトは、ボルバキアに感染した雌雄両方の蚊を放出することで、デング熱を媒介する蚊を駆逐しようとする試みである。

パイロットプロジェクトは2019年11月19日にペナン、クアラルンプール、セランゴールなど8ヶ所で実施されており、そのうち3ヶ所はペナンであった。今回、プロジェクトを一歩進め、433,500個のボルバキア細菌を注入したヒトスジシマカの卵が医学研究所より提供され、ペナン州での実験が始まった。

今の所、実験場と農業地帯の間に200mの緩衝地帯を設けた上での実験である。実験中に蚊を駆除するための農薬の散布により、ボルバキアに感染した蚊を殺さないようにするためである。実験の長期的な効果が認められれば、こうした農薬を散布する必要がなくなると見込まれている。

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