貧困率というと、絶対的貧困率なのか相対的貧困率なのか、或いは別の指標なのかで見方が大きく変わる。政治やメディアの都合の良いように使われやすい指標でもあり、日本でも政府批判がしたいだけのメディアは相対的貧困率を過剰に持ち上げる。
「国際連合の方から来ました」に過ぎない国連特別報告者の報告を「国連が○○を問題視」と報じるのもよくある手口だ。
国が変わってマレーシアでも状況が違うが貧困率を巡って同じようなやり取りがある。
国連の人権専門家:マレーシアの貧困率は大幅に過小報告されており、実際には15~20%(malay mail)
- マレーシア政府が公表する世帯貧困率は1970年の49%から2016年にはわずか0.4%にまで低下
- 国連特別報告者フィリップ・アルストン氏は、4人世帯で1ヶ月980MR(233.8USD)というのは非現実的な数値と批判
- 1人1日当たり8MR(1.9ドル)という絶対的貧困ラインに基づく数値は、「低所得国」だった1970年には有効だったが、「中所得国」となった現在では役にたたない
- Khazanah Research Institute(KRI)が採用する国の貧困率( 世帯の平均収入の60%以下)などから計算すれば、マレーシアの貧困率は15~20%
- アルストン氏は、現実的な貧困率を測定しないことで、国の発展と公共政策立案に悪影響を与える可能性があると指摘
- ボトム20で生活する人のニーズに対応するような政策を立案すべきであり、そのための透明なデータポリシーの採用を助言
マレーシアは国連当局者による発言に対して自国の貧困率を支持(Bernama)
- マレーシアのアズミン・アリ経済大臣は、国連特別報告者フィリップ・アルストン氏の予備調査結果に失望を表明
- 国連が発行する「家計所得統計に関するキャンベラグループハンドブック第2版(2011)」に基づいて貧困率を計算していると反論
- 人口統計学的要因や輸送コストなどを考慮し、地域ごとに貧困ラインを別に設定しており、「悪意に満ちた統計的なトリック」だとして容認できないと主張
- 収入の下位40%(B40)が直面している生活費の上昇の問題を無視しておらず、貧困問題に対処することを約束
- 現在の状況をよく反映するように貧困ラインを見直すことも検討
- 例えば多次元貧困指数(MPI)など所得だけでなく広範に捉えた指数が確立している
関連記事:多次元貧困指数(MPI)とは何か:時代遅れの絶対的貧困率
補足
国連が採用する絶対的貧困率を利用して、国の貧困率は0.4%と言い張るマレーシアもマレーシアだが、平均所得の60%を閾値にした相対的貧困率で貧困率を高めに主張するアルストン氏もアルストンであり、「どっちもどっち」である。(普通は相対的貧困率では50%を閾値にする。)
どちらの記事も国連公式の発表のようにミスリードするような記事タイトルとなっているのも、日本における「メディアの中立性に対する批判」などに対する国連特別報告者の報告を伝える記事と似たようなものだ。
もう一度言うが国連特別報告者は、
国際連合の特別報告者は、国際連合人権理事会から任命され、特定の国における人権状況や主題別の人権状況について調査・監視・報告・勧告を行う専門家である。政府や組織から独立して個人の資格で任務に就くものであり、中立的に職務を遂行できるよう給与その他の金銭的報酬を受けない。
Wikipediaより。太字は筆者による
と「国連の方から来ました」レベルのものである。金銭的報酬を受けていないとは言うものの、独立した専門家による意見であり、国連の意見とは何の関係も無い。
参考文献
Bernama, “Malaysia stands by Poverty rate in reaction to remarks by UN official”, 23 Aug 2019