マレーシアが絶対的貧困率を採用しているのに対し、国連特別報告者フィリップ・アルストン氏は、中所得国となったマレーシアにおいて絶対的貧困率(1日1.9ドル未満で生活する人の割合)を計算しても実態を掴めないと批判し、KRIに基づく相対的貧困率(世帯収入の60%未満で生活する世帯割合)を利用すべきと主張した。
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絶対的貧困率は、過去からの傾向を見る上では連続性があるので、その点では有用である。例えば、インドの絶対的貧困率は2011年においては25%だったが、2018年には5%まで下がっているが、今のインドの状態を見て「インドの貧困問題は極めて小さい」とは言い難いだろう。1.9ドルを超えたとは言え、所得の最頻値は3ドル強/日だからだ。
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政府を批判するために閾値を都合よく変えて相対的貧困率を利用するのも大きな問題はあるが、ある程度経済成長すれば絶対的貧困率は政策において有用性が低くなる。
代わりとして主流となってきているのがマレーシアにおける貧困率を巡る応酬でもアズミン・アリ経済大臣が言及した「多次元貧困指数」(MPI: Multidimensional Poverty Index)がある。
多次元貧困指数は、国連開発計画(UNDP)が「2010年人間開発報告書」で導入した指数で、教育・健康・生活水準から多面的に貧困の発生頻度を捉えようとするものだ。
指標の定義(英語)や2018年のデータは、UNDPに掲載されている。
参考:UNDP, “Human Development Reports”
内閣府が指標で計算する項目の和訳を掲載しているので、それをまとめた図を以下に掲載する。
教育・健康・生活水準それぞれのウェイトが1/3ずつになるように指標が設定されており、個々の指標項目のウェイトは図の右側に書いている。
この指標は世帯ごとに計算し、例えば「1.就学年数」であれば、世帯に6年以上の就学経験がある人が1人でもいれば貧困指標には該当しない。
これらを計算し、該当した指標の合計値が1/3を超えた世帯人数を貧困者とし、全人口の割合を求めたものが多次元貧困指数に基づく貧困率である。
多次元貧困指標には、一人でも指標に該当する人がいれば世帯全員が貧困と数えられることの他にも、「対象国によって調査データの年数が異なり比較が難しい」ことや、上記はあくまでもUNDPの提案する項目であり「内部にどのような項目を設定するかは指標のユーザーに委ねられている」ことなど、多くの問題が指摘される。(出典:貧困統計ホームページ)
しかし、
- 世帯の一人だけが栄養状態が悪いケースは少ない
- 親世代が教育を受けていなくても、生活水準の向上によって子どもが教育を受けられているケースを拾える
- 電気や水など所得だけでない生活全般を網羅している
- 105ヶ国(世界人口の77%)を網羅できている
など指標として優れた側面もある。
例えばインドなら、2016年時点の多次元貧困指数の計算結果は、貧困率は27.71%であり、そのうち重度な貧困者の割合は8.59%であり、絶対的貧困率よりも実態を捉えられていると考えられる。