ロンドン・エコノミストが米国の貧困率指標の計算方法は時代遅れで欠陥が多いとしている。
現在米国で使われている貧困指標は、1955年の家計調査を元に「一般的な家計は収入の1/3を食費に使う」という前提を取り、そこから様々な規模の家計に最低限必要な食費を計算し、「その値の3倍」をインフレ調整して使っている。
今や経済構造が全く異なるので食費は世帯収入の1/8しか使われていない。貧しい世帯は住居費が収入の半数以上を占め、食費や医療費などを減らす傾向があり、この指標は時代に合っていないという。
エコノミストは他にも3つの問題があるといい、非常に興味深いので、順番に概要を紹介する。
税と所得移転が考慮されていない
まず、米国の貧困率計算に用いられる所得は、税と所得移転前の金額で計算されるということである。所得税控除(年間630億ドル)とフードスタンプ(年間680億ドル)に所得分配効果があるにも関わらず、これらが無視されているという。
洗練された方法としてSPM(Supplemental Poverty Measure)がある。定訳が無いようなので仮に補助的貧困尺度と呼んでおく。
以下は、米国の公式貧困率(黄色)、SPM貧困率(赤色)、2012年を基準にした修正SPM貧困率(青色)を示している。公式の貧困率は長期的に10%台前半で推移しているが、修正SPM貧困率は長期的に低下しており、所得移転効果が出ていることが分かる。
ここでは表示していないが、更に消費を考慮すると更に急激に貧困が改善していることが示される。
貧困ラインの一貫性
多くの先進国では米国のような絶対的な貧困尺度だけでなく、相対的貧困率も利用する。例えば日本では所得中央値の50%未満、英国では所得中央値の60%未満などの基準が用いられている。
相対的貧困率も過剰に貧困を強調する手段として使われることがあるなど問題も多いが、米国の場合はその段階にも達しておらず、時系列的な一貫性が無い。
1975年時点では貧困の閾値が中央値の40%だったにも関わらず、その後の所得の伸びがインフレ率を上回っているため、インフレ率を考慮しても時系列で数値が発散し、2017年時点では貧困の閾値は中央値の26%に過ぎない。
地域差が考慮されていない
人口が集中する州とそうでない州では地価や物価などが大きく異なるので、生活費が全く異なる。それにも関わらず、同じ貧困ラインを採用することは政治に対しても誤った認識を与える。
米国の指標だとケンタッキー州やアラバマ州などが最も貧しい州ということになるが、SPMなどで生活費を考慮に入れるとカリフォルニア州が最も貧しい州ということになる。
参考文献
[1]The Economist, “The official way America calculates poverty is deeply flawed”, 26 Sep 2019