投資に役立つ『全世界史』(16):500年続くカトリックとプロテスタントの壁

宗教改革といえば、ルターが古代ギリシア語で書かれた旧約聖書・新約聖書をドイツ語に翻訳し、活版印刷術の普及も相まってカトリック教会がいかに自由にしていたかが知られることになり、「抗議」として起こったのがプロテスタントである。

このシリーズは、出口治明(2018)『全世界史 下巻』新潮文庫より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介するものである。今回は下巻第五部2章「アジアの四大帝国が極大化、ヨーロッパにはルイ十四世が君臨」である。この章は17世紀を広く扱うものだが、本稿では前回に引き続いて宗教改革に着目することになる。

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この章は冒頭の要約に重要な点が述べられている。宗教改革に続く宗教戦争の部分は以下のようになっている。

ヨーロッパではドイツを中心に宗教戦争が猖獗を極めました。宗教上の争いは本当に根深いものがあります。特にローマ教会とプロテスタントの争いです。典型的なパターンは、ローマ教会派の頑迷な君主が弾圧を始め、それにプロテスタントが反発するという形です。三十年戦争はその典型でした。プロテスタントは自分で聖書を読めることが前提となっているので(リテラシーが高い)、どうしても若くて優秀でアイデアのある人が多く、戦うたびにローマ教会派は弱くなるという構図が続いていきます。

出口治明(2018)『全世界史 下巻』新潮文庫(p. 123)
注:太字部分は筆者による

冒頭の通り、聖書のドイツ語翻訳により特権階級が独占していた聖書をより多くの市民が読めるようになったのが宗教改革のきっかけである。しかし、それでも当時の識字率は低いので、ドイツ語であっても読める人は限られる。すると、自ずと初期プロテスタントがエリートに限られてくる。

そしてプロテスタントの方が資本主義と親和性が高かったのは後の歴史が示す通りであり、カトリックとプロテスタントの間に経済的な格差が生まれる。その格差は今もなお残っている。

以下は米国のSAT(大学進学適正試験)の数学における属性別スコアの推移である。このデータはカトリック教会に強く反発するプロテスタント側のサイトが作成したグラフなのでデザインに思想が強く込められているが、純粋にデータを見ても人種格差・性別格差など以外に、キリスト教の宗派別格差があるということが分かる。

米国の属性別SAT数学スコアの推移
出典:Talking the Talk but not Walking the Walk

これだけ見れば、カトリック教徒が多い中南米からの移民によって差が出ているだけではないかと思えるが、以下のグラフのように同じ白人であってもプロテスタントとカトリックに大きなスコア差が存在するようである。以下のサイトでは、他にもIQなど様々なデータが示されている。

2010SAT数学スコアの属性別分布
出典:Talking the Talk but not Walking the Walk

別にここでプロテスタントが優秀とかそういう事を言いたいわけではない。属性云々を言えば無宗教者の方がIQや試験のスコアが高い傾向にあるし、ノーベル受賞者の信仰心は自然・人文ともに低い傾向がある。しかし、それを以て何らかの優劣を述べたいわけではない。

ここで言いたいのは、次世代への経済的社会的文化的な影響はそれほど強く、500年経った今でも残存しているという事である。アメリカンドリームのイメージが強い国だが、表面的な経済的流動性(economic mobility)は高いものの、宗教間の差異を取り除くほどのものではない。そして米国の経済的流動性も長期的に低下しており、人種だけでなく宗教的な格差構造というのも米国社会を読み解く上で重要なものとなるはずだ。

出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫


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