投資に役立つ『全世界史』(15):イエズス会と映画『パラサイト』

イエズス会と言えば日本ではフランシスコ・ザビエルが有名だし、現ローマ教皇フランシスコは史上初のイエズス会出身のローマ教皇であり、カトリックにおいて重要であることを匂わせる。宗教改革からイエズス会の誕生、イエズス会出身のローマ教皇という一連の歴史は、非英語の映画『パラサイト』がアカデミー賞を受賞したこととも通底する。両者に渡る共通点は現代の世界情勢を見る上で重要なものである。

このシリーズは、出口治明(2018)『全世界史 下巻』新潮文庫より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介するものである。今回は下巻第五部1章「アジアの四大帝国と宗教改革、そして新大陸の時代」である。特にここでは宗教改革の部分に着目する。

前回:投資に役立つ『全世界史』(14):インドではないことの証明

ローマ教会が贖宥状を発売したことに対して、マルティン・ルターが反発したことが宗教改革の端緒だが、神聖ローマ帝国のカール五世はルター派を追放する。オスマン帝国による第一次ウィーン包囲の際にカール五世は宗教対立を緩和しようとしたことでルター派は台頭する。再度ルター派を禁止しようとする動きに対する抗議(プロテスタント)により、ドイツはプロテスタントが広まっていく。

プロテスタントに対してローマ教会を再生させようとしてパリ大学の若者7人が結成したのがイエズス会である。この7人の一人がフランシスコ・ザビエルである。

一方で、スイスで行われた宗教改革で生まれたのがカルヴァン主義である。カルヴァン主義の「予定説」はローマ教会の勢力を著しく衰退させていく。

予定説とは、救済を得られる人はあらかじめ神によって定まれている、その者はみずから禁欲的に天命を務めて成功する人間のはずである、という教えでした。この教えがローマ教会にとって厄介なのは、あらかじめ神様が決めているのであれば、何も教会にお布施を積んだり、ローマに巡礼しなくても、救われるということになるからです。

出口治明(2018)『全世界史 下巻』新潮文庫(p. 103)

有名なマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は、カルヴァン主義が資本主義の発達の由来であるとするものだが、それはさておきローマ教会の勢力は損なわれていく。

ドイツ、スイスを取られ、イングランドは国教会となり、さらにプロテスタントの波はスウェーデンや北欧諸国にも及んでいきます。この失われた領土をどのように埋め合わせるかを考えたとき、浮上してくるのがアメリカ大陸とアジアでした。その流れのなかで、ザビエルは日本にやってきたのです。

出口治明(2018)『全世界史 下巻』新潮文庫(p. 104)

イエズス会がアメリカ大陸やアジアに広がったのは、まさに宗教改革が原因である。しかし、18世紀の絶対王政の時代になると、海外で自由に活動してローマ教皇に忠誠を誓うイエズス会は邪魔になる。これによりスペイン、ポルトガル、フランスとイエズス会が次々と追放されることになる。

長らくイエズス会は異端として扱われることになるが、それでも20世紀の世界的な人口増加によりイエズス会はヨーロッパ外を中心に信者を増やすことになる。イエズス会からローマ教皇フランシスコが誕生したのも、ヨーロッパ以外でのカトリックの重要性が高まったからである。

同じことがオスカーにも言える。長らく白人・英語中心主義のアカデミーにおいて、韓国映画である『パラサイト』が受賞したのは、何もポリコレの流れだけではない。映画ジャーナリスト猿渡由紀氏は、『パラサイト』がアカデミー賞を受賞できた理由の一つとして以下のように述べている。

 ひとつは、この4年ほどの間に起こったアカデミー賞の投票母体の変化だ。演技部門の候補者20人が2年連続で全員白人だったことから「#OscarsSoWhite」批判が起きたのを受け、米アカデミーはマイノリティや女性、若者を増やすべく、意図的にそれらの人々を新会員に招待してきた。

 会員のクオリティを落とさずにそれを行う上で注目したのが、海外の映画人。4年前には6000人前後だった会員数は現在1万人弱にまで増え、その中には過去に類を見ないほど外国人がいる。映画といえばハリウッドと信じてやまない従来の会員の中に、カンヌやヴェネツィアは常連だがアメリカの超大作はあまり見ないという人がかなり混じってきたわけだ。

東洋経済オンライン「 「パラサイト」がアカデミー賞を受賞できた理由 」2020年2月11日

きっかけこそ近年のポリティカル・コレクトネスの流れを受けたものだが、結果として非白人の会員が大幅に触れたことが選出において重要であることが分かる。

ローマ教皇においては長年のイエズス会の世界中での布教活動の成果であり、アカデミー賞の場合はポリコレの流れを受けた非白人会員の増加という点では異なるが、いずれにしても文化において様々な国の様々な属性の人の発言力が高まったという点は共通している。

今後、文化・宗教に限らず様々な分野においては似たようなパワーバランスの変化は多く発生すると考えられる。国際機関における発言もそうだし、イスラム教におけるアジアの影響など色々な変化が考えられる。

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出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫


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