環境難民:気候変動による潜在的な問題

国連人権理事会(UNHCR)は2020年1月7日、気候変動による難民申請を各国政府は認めるべきという見解を発表した。きっかけは太平洋の島国キリバス出身のイオアネ・テイティオタ氏が、ニュージーランド政府に気候変動を理由とした難民申請をしたが2015年に却下されて強制送還されたことに対して、UNHCRに異議申し立てを行ったことである。

ニューズウィーク「「環境難民」を政府は追い返せない──国連人権理事会」2020年1月21日

UNHCRの見解(法的拘束力は無い)では、 現時点ではキリバスは居住不可能という状況ではないのでニュージーランド政府の判断は妥当とみなしているが、今後10~15年以内に海面上昇により居住不可能になるという見方から、難民条約における難民の定義を見直し、各国が対応すべきとしている。

難民の地位に関する1951年の条約では、難民の定義として「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」(1条A)ために他国に逃れた者を差す。

当然現行の条文では気候変動による難民は想定されていないが、将来的にはキリバスのように国土のほぼ全てが水没すると考えられている国が存在し、将来的に「環境難民」は切実な問題になると考えられている。

実際にどれくらいの人が潜在的に環境難民となり得るかの予想はまちまちだ。例えば UNHCRのグランディ高等弁務官は具体的な数値は避けているものの「確実に数百万単位」という見解を示している。他には環境正義財団(EJF)「向こう10年で数千万人」、世界銀行は2050年「1億4000万人以上が移住することになる可能性」を指摘している。

数値がバラバラなのは今後の気候変動の状況による仮定も異なり、「国内にまだ住める場所がある場合に認められるか」といった問題もあるからであるが、いずれも多くの潜在的な「難民」がいるのは海面上昇以外に様々な問題が存在するからである。

海面上昇による水没は直接的な問題だが、土壌や地下水の塩化による飲料水・耕作の問題が生じ得るし、干ばつや山火事など先進国であっても難民が生じるリスクは存在する。特に南アジアやサブサハラ・アフリカ、南米などから多くの環境難民が生じるのではないかと見られている。

尤も、難民申請を認めるという形で解決するかどうかは分からない。水没や水質の塩化が問題であれば、国民全員を難民として受け入れるのと、国土を堤防などで引き上げて、海水による浄水設備を設置するのとどちらがコスト面で釣り合うかといったことは現時点ではなかなか推測が難しいからである。

しかし、いずれにしても将来的に環境難民が国際社会において切実な問題になるというのはほぼ間違いないと言って良いだろう。

参考文献[1]:ロイター「気候変動による「環境難民」急増に備えを、国連機関が呼び掛け」2020年1月22日

参考文献[2]:BBC「環境難民の本国送還を認めず 国連が判断」2020年1月22日

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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