海洋貯熱量と台風

7月は台風が発生しなかったとしてニュースになったが、8月に入ってポツポツと発生してきている。8~9月が台風シーズンであり、今後は特に台風への警戒が必要かもしれない。

台風の発生要因として古典的に言われる指標が「海水温」である。気象庁によれば、2020年8月上旬における日本近海を含む北西太平洋の海水温は、平年より高めである。また、8月8日~9月10日までの同地域の海面水温予報でも、平年並から平年より高い。

北西太平洋の海面水温(2020年8月上旬)
出典:気象庁

古典的には海水温が26度を超えると台風が発生しやすいと言われるが、海水温が高いからと言って台風が発生するというわけではない。ここ数年、気象庁が重視しているのは海域の「貯熱量」である。気象庁の量的予報技術資料(予報技術研修テキスト)第21巻第7章によれば、海洋貯熱量は以下のような式で求めらえっる。

$$Q={ c }_{ \rho }\int _{ 0 }^{ Z26 }{ \rho \left( T-26 \right) dz } $$

記号はそれぞれ、

  • Q:海洋貯熱量
  • Cp:海水の低圧比熱
  • T:海水温(℃)
  • ρ:海水密度
  • z:水深
  • Z26:海水温26℃等温面の深さ

であり、海面から海水温が26℃となる深さまでの熱量の積算である。海洋貯熱量を使えば、以下のように地上気温平年差が停滞している時でも海洋貯熱量平年差は継続して伸びていることが追え、より台風発生条件の検討に良いという。

全球平均地上気温と海洋貯熱量の比較(全球)
出典:気象庁「海洋への熱の蓄積について」

下図は気象庁が公開する0-700mまでの北西太平洋における海洋貯熱量平年差の推移をグラフ化したものである。(オンラインでも見れるが北西太平洋の場合は変化が分かりにくいので再作成している。)長期的に貯熱量が増加しており、特に2017年以降は貯熱量が平年に比べて急激に増加している傾向が伺える。

海洋貯熱量平年差(×10^22J, 0-700m)
出典:気象庁「各海域の水温・貯熱量の長期変化傾向」

資格の関係で、筆者は強い台風が発生するとか、台風が増えるといった事を予報することはできない。ここではあくまでも、個人的には警戒した方が良いのではないかと気象庁のデータを元に提示しているだけである。

もし台風の影響が強くなれば、関連してくる銘柄は多い。雨漏り対策となる製品や倉庫を扱う会社やホームセンター、もっと直接的にはウェザーニューズなど多様なものが考えられる。これらは買いとして注目を集めるものだが、逆に保険関連は利益を圧迫するので売られる可能性もある。

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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