米国のトランプ大統領にせよ、英国のブレグジットにせよ、なにかとナショナリズムは経済への敵とされがちである。確かに貿易障壁などが世界経済に与える悪影響は大きく、グローバリズムの流れから逆行する事は経済成長にとって害である。しかし、ナショナリズムや愛国心など根本的なものは決して経済や投資の敵ではない。
このシリーズは、出口治明(2018)『全世界史 下巻』新潮文庫より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介するものである。今回は下巻第五部3章「産業革命とフランス革命の世紀」である。
前回:投資に役立つ『全世界史』(16):500年続くカトリックとプロテスタントの壁
18世紀のヨーロッパはスウェーデンやオーストリアが弱体化し、代わりにフランスやグレートブリテン、アメリカが勃興する時期である。 この時期の社会経済への大きな影響として産業革命があることは誰もが認識しており多く取り上げられるが、それと並んで重要なのがフランス革命だと論じられている。
著者は、この時代にヨーロッパが世界の主人公として成り上がっていく要因として、産業革命だけでなくフランス革命が醸成した「国民国家」という共同体が生まれたことが重要だと指摘する。(アジアの老大国はどちらかが欠けていたことにより衰退した。)
フランス革命は近代民主主義の基礎として重要だが、それがナショナリズムを生むきっかけともなった。自由や平等を推し進めるために君主がいない国を作るには、君主無しでも統合できる「国民」という概念が必要である。その時に必要だったのが政治学者ベネディクト・アンダーソンがいう「想像の共同体」であり、「フランス国民」などといった意識である。
それまでの政治は「理性」によって統治するものだったが、それに対し、アメリカやフランスで生まれた考え方は、人間が考え出したものは信用できないが故に、歴史やマーケットで評価されたものを残すというものである。これが「保守主義」の始まりである。
産業革命と国民という概念の形成で飛躍的に経済成長を遂げたという意味では明治時代の日本も同じである。明治政府は民主主義社会ではないが、それまで「国」といえば尾張国や河内国であった日本は、所属意識も日本ではなく律令国や或いは藩だったとされる。それを天皇を中心に据えて意識として「国民(当時は臣民)」を形成したという意味では共通する。
経済成長においては何かとイノベーションが大事と言われがちである。勿論これが不可欠であることは確かだ。しかし、これだけでは足りないというのが筆者が本章から受け取ったメッセージである。
確かに、投資に関しては日本ばかりに投資してしまうのは「ホームバイアス」と言ってあまり合理的ではない。ホームバイアスに陥るのが日本が好きだからなのか英語が分からないからかは別にして、あまり良くない。しかし、企業を育てる、人を育てるといったものについては誰かが愛国心を持って国内に投資するという行為が必要となってくる。
過激なナショナリズムは害が多いかもしれないが、一部の人が明示的もしくは暗黙的に主張するコスモポリタニズム(世界市民主義)は、貿易障壁は無くなるかもしれないが、経済的に完全に平等になれば先進国は今の経済水準を維持できまい。
自由貿易などのメリットは享受しつつ、国民が愛国心を持ち、国としては適宜協調しながら競うというのは別に間違ったことではなく、投資の世界でも完全に切り捨てなければならないものではない。
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