今回、鳥貴族は「特別損失の計上及び第2四半期累計期間の業績予想と実績の差異並びに通期業績予想の修正に関するお知らせ」ということで業績予想を下方修正し、一転赤字転落とした。
直営している4店舗において、不採算による撤退を決めたことから固定資産の減損損失を計上したことが要因である。
実は、この鳥貴族のケースはよくよく見ると、チェーン店を展開する企業がよく陥る典型的なケースなのである。
それでは、鳥貴族は何を間違ったのかについてポイントを整理する。
根拠なき店舗数前提の拡大戦略
好調な既存店売上高を背景に新規出店を加速さ せ、2021 年7月期での「3商圏 1,000 店舗」という目標へ向けて邁進してまいりました。
鳥貴族のIRより引用
まず、チェーン店の戦略でよく見られるのが、店舗数を目標に掲げるものである。
しかしながら、上記で見る1,000店舗という数値には数字のキリが良いということ以外には特に意味がないように思われる。
安易に店舗数を目標に掲げてしまうと、各店舗の収益性をあまり考慮しなくなる傾向に陥りやすくなる。
店舗毎の収益計画の甘さ
加えて、出店加速により展開した新店は、好調時の水準をベースに売上高や経費を計画していた ため、出店時の売上高・利益計画に対して未達で推移する店舗が多く発生しました。
鳥貴族のIRより引用
上記のように好調時の水準をベースに計画を立ててしまうというのは、本来的にはあり得ない話である。
しかしながら、実際の出店計画ではよく聞くケースではある。
銀行等でこういう事業計画を審査する場合は、提出計画の7掛けもしくは8掛けで見たりもする。
出店計画というのはとにかく甘くなりがちであり、本件では他の好調店舗の勢いでよほど自信があり、見誤ったものと思われる。
立地計画の甘さ
既存店 の近隣に追加出店した店舗では自社競合が発生することとなりました。
鳥貴族のIRより引用
他社競合なら良くある話であるが、自社競合というのは笑えない話である。
コンビニ等がよく行うドミナント戦略を模倣したのかもしれないが、これは完全な立地計画の失敗であろう。
価格改定による失敗
人件費等のコスト高を背景とした 28 年ぶりの価格改定を 2017 年 10 月に実 施したこと等から客数が減少し、店舗の収益力が低下するという結果となりました。
鳥貴族のIRより引用
鳥貴族は「低価格」と「価格の割に良い品質」を売りにしてきた。
このコストパフォーマンスを売りにする場合、価格改定は非常に大きな問題となる。
「安かろう悪かろう」 を売りにしている居酒屋は実際多い。
一方で、「品質は良いが値段はそこまで安くない」居酒屋も多い。
コストパフォーマンスが売りであった以上、値段が上がればこのどちらの居酒屋も競合となる。
必然的に自らレッドオーシャンに突入してしまった結果となったのである。
つまりマーケティング戦略がずさん
問題点を列挙したが、要約するとマーケティング戦略が非常にずさんであることが今回の問題の発端である。
ここまで拡大してきた企業が、非常に基本的な部分でコケたように見え、企業のマーケティング能力にも非常に疑問が残る。
しかしながら、居酒屋等の小売店が店舗展開する上では学べることは非常に多いケーススタディと言えるであろう。
では、鳥貴族の経営に問題はあるのか?
今回、マーケティングの失敗を取り上げたが、実際経営がマズいかどうかという点について考えたい。
財務内容を見てみると、特別問題はないことが分かる。
特に、出店による投資キャッシュフローのマイナスが大きいものの、出店計画を抑えれば良いのであり、それさえできればキャッシュを生み出す力は非常に大きくなる。
実際、今回出店計画の問題点を認め、撤退を決めたのは英断であるとも言える(普通はなかなか撤退の決断をするのは難しいものである)。
社長の剛腕は健在であると思われるので、今後の企業経営に期待したい。