山地に住んでいる人にとっては日常茶飯事だが、市街地で出現すると大騒ぎになるのがイノシシである。イノシシが増加し活動範囲が広がれば、人や農作物だけでなく、豚コレラの流行拡大など様々な悪影響がある。
茨城県県北農林事務所によると、イノシシは本来は昼行性かつ平地の生き物である。そして非常に臆病な生物であるがゆえに、人間が生活圏を広げるにつれて山奥に生息域を移していき、更に人間に遭遇しないように夜に行動様式を変えていったという。
今また日中に、しかも市街地に出没するというのは、それだけ人間に慣れ、そして平地に戻ってくるきっかけがあったということである。「本来のイノシシの在り方に戻った。めでたしめでたし」とはなかなか考えられないのが普通だが、それはさておき、こうなったのは何故か。
これには2つの理由が挙げられる。
- 使われない農地の増加によりイノシシの生息に適した土地が増えた
- 森林管理の不十分さによりイノシシが隠れられる場所が増えた
1つ目が農業の影響、2つ目は林業の影響であり、結局は農林業の衰退が根本原因ということになる。
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の平田滋樹上級研究員は、イノシシが増加している原因について以下のように述べている。
「生息に適した土地が増えているためだ。 高度経済成長期以前は、国内では山奥まで農地が広がる所が多かった。農地が使われなくなると、イノシシが土地を利用するようになる。60年代や70年代の環境変化が徐々に個体数に影響し、ここ数十年の増加につながっているとみられる」
日本経済新聞
これが1に該当するが、理由はこれだけではない。現に使われている農地でもイノシシによる害獣被害は多く報告されており、農業の衰退だけがイノシシの生息域拡大の原因ではない。
それが2の森林管理の問題である。本来適切に森林が管理されていれば、
- 森林 ー 間伐された緩衝帯 - 市街地
- 森林 - 間伐された緩衝帯 - 農地
という風に、グラデーションのように森林の密度が薄くなっていき、徐々に人の生活圏に近づいていく。そうすれば、イノシシも活動中に森林密度が低くなっていけば人の生活圏に近づいていると分かり、臆病な性格故にそれ以上外側に出ようとしなくなる。
しかし林業の衰退により、放ったらかしの森林が増えた。そうすれば、
- 森林 - 市街地
- 森林 - 農地
のように深い森林から突然人の生活圏にイノシシが出てしまうことになる。そこに1のように放置された農地などがあれば餌を確保する場所として使うようになり、どんどんイノシシの生息域が拡大していくという具合になる。
クマが市街地に出没することが増えているのも同様の理由であるが、これを防止するために提案されているのが里山管理である。これについては農業の担い手が行う或いは自治体が協力するなど各地で様々な取り組みがされているが、農林業の衰退と人口減少などにより十分に進んでいないのが現状である。
参考文献[1]:日本経済新聞「豚コレラ背景にイノシシ増:農研機構の平田滋樹上級研究員に聞く」2019年12月4日
参考文献[2]:茨城県県北農林事務所「野生動物からの農作物被害を防ぐ」