ドイツの解雇規制緩和:EUの金融センターに向けて

ドイツは高給バンカーの解雇を容易にすべく法改正へ(Bloomberg, 2019/2/21)

  • ドイツでは一定の所得以上の社員を容易に解雇できるようにする労働法改正案が下院で可決された。
  • 対象者は「リスクテイカー」と呼ばれる、年間22万ユーロ以上(249,000ドル、2,700万円)稼ぐ銀行員、最大約5,000人を対象とする。
  • この法改正は英国のEU離脱にともなう金融業界への影響を抑える一連の法改正の一部という位置付け。
  • 英国のEU離脱にともない、フランクフルトに銀行を誘致する狙いがある。
  • 一方で、銀行内で会社に影響を与えかねないレベルの大きなポジションを動かす個人からのリスクを抑制する効果を期待している。

視点

英国のEU離脱により、英国に拠点を置く外資系金融機関はEU域内で営業可能となる「単一パスポート制度」が失われる可能性が出てきており、各金融機関はEU離脱協議結果次第ではEU内に新たな拠点を設ける必要が出てきた。そこで、ドイツはそれら金融機関を招致し、ロンドンのシティーに代わりフランクフルトを欧州の金融の中心にしたいという考えであると推測される。

これまで英国が欧州の金融の中心であった事情にはこれまでの歴史の長さの他に解雇条件が他のEU諸国より緩和されている点も優位性があったと考えられる。

以下はイギリスの個別雇用が正当か不当かの条件である。

正当:労働者の能力、資格または行為に関係する解雇、余剰人員、雇用の継続が違法な場合、その他の「実質的な理由」。不当解雇を訴えるためには通常1年の勤続期間が必要。

不当:労働組合活動、安全衛生、内部告発、妊娠出産、最低賃金といった理由に関係する解雇。これらの理由の場合、訴えるのに勤続期間の制限はない。

引用:欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―
独立行政法人労働政策研究・研修機構

つまり、労働者の能力で解雇することに特段の条件は定められていないことが分かる。

一方で、ドイツは以下の通りである。

正当:労働者の個人的特性若しくは行為に関連する要素(不 十分な技能または能力)に基づく解雇、または経済的 必要及び緊急の操業上の理由に基づく解雇。

不当:労働者を同一事業所または企業内の他の地位で維持できる場合の解雇。「社会的配慮」(勤続期間、年齢、扶養責任)が十分になされなかった整理解雇。解雇の前にリハビリテーションがなされなければならず、さもなければ解雇は不当と見なされる。

引用:欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―
独立行政法人労働政策研究・研修機構

ドイツは不当解雇に該当する項目が英国より厳しいことが分かる。特に企業内で他にポジションを用意できる場合は不当解雇に該当する場合もある。

以上のような解雇条件の厳しさが、特に米国系の投資銀行の企業文化に合っていなかった可能性がある。今回の法案が最終的に施行されれば、ドイツの金融マーケットとしての魅力は上がるであろう。EU内の産業大国として君臨しているドイツが、更にEUの金融センターとなればより一層経済大国として存在感を示すこととなるであろう。

参考文献

Firing Bankers in Germany Is About to Get Easier in Brexit Era

欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―

この記事の著者 YOUKI について

SlofiAでは金融・財務分析関係を専門に執筆。元銀行出身で融資関連業務の経験が中心。現在は上場企業の経理を担当。

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