なぜZOZOの前澤友作氏はプロ野球と宇宙とアートに興味があるのか

ZOZOの前澤友作氏は、剛力彩芽氏との交際やプロ野球団を保有したいという意志表明、宇宙旅行、そしてtwitterでの本人の言動やZOZOARIGATO によるブランド離脱問題など何かと話題になってきている。当人のアパレルブランドについての考え方と実際のアパレルブランドの在り方の乖離はともかく、

  • 123億円でのバスキア購入
  • プロ野球団の保有希望
  • アーティストを連れての宇宙旅行

については、彼の行動から「2つの狙い」が読める。

プロ野球球団保有というステータス

千葉マリンスタジアムの命名権を取得した上でのZOZOマリンスタジアムから始まり、プロ野球球団の保有願望の公表など、前澤氏はプロ野球に対する興味が強い。

現時点では断念しているものの、「近々での球団保有はいったん断念する」という風に完全に諦めたわけではないことも分かる。

球団保有のメリットは第一に広告宣伝効果である。少なくともシーズン中は不人気球団であってもゴールデンタイムのプロ野球ニュースに(例え文字だけでも)必ず企業名が出る上、映像とともに流れることも多い。B to Bが中心のオリックス<8591:JP>の名前があれだけ有名なのも球団保有の効果は大きい。同じだけの露出をCMでやろうとすれば莫大な資金がかかるが、球団保有であれば年間100~200億円くらいの予算で済む上、観客動員数やグッズ売上などである程度は回収できるわけだ。

しかし、日本ではあまり意識されない効果として「アメリカでのステータス」がある。アメリカではメジャースポーツチームを保有している事は「企業のステータス」であり、本拠地にとっては「大都市のステータス」である。そこにあやかろうとするスポンサー企業も多い。

日本も野球はメジャースポーツであるとは言え、野球界の規模を日米で比較すればそこには大きな差がある。しかし「プロ野球チーム」であることには変わりが無い。日本のプロ野球チームのオーナー企業の関係者がアメリカに行き、球団保有企業であることが分かると一目置かれる事が多いと聞く。必要以上に過大評価をしてくれている側面もあるかもしれないが、それもまたブランドである。

海外での知名度を上げる上でもプロ野球球団の保有は有効なのだ。実際、失敗したZOZOスーツも72ヶ国に10万枚を配布と海外事業の強化も力を入れていたし、そもそも中期経営計画として海外売上比率の増加を目標に掲げているのとも一致する。

そして、スペースXの最初の搭乗者となって民間人初の月周囲を飛行するという計画についても、海外への宣伝の意図もあろう。他の意図については後で論じる。

現代アートへの投資は歴史を作る

現代アートはぱっと見てよく分からないものが多い。それもその通りで「文脈」ありきで作られているものが多いからである。世界的に有名な現代美術家である村上隆氏が『芸術起業論』の中で明快に論じているものが有名だが、現代アートの評価軸は主に2つで、

  • 金(いくらの値段がついたか)
  • 文脈(作品にどのようなストーリーがあるか)

である。よく分からない作品が多い以上、「10億円で売れれば10億円の価値」というのが現代アートを読み解く大雑把な理解である。そういう意味で「金を出したものが美術史を作る」という側面がある。

とは言え、何でも良いわけではない。評価に値する文脈が必要なのだ。その文脈は村上隆氏の場合のように「エロ」であったり、社会問題への何らかの訴えであったり、色々あるわけだが、それ自体は作品だけでは伝わらない。だから様々な媒体でインタビューに答えたり、評論や論文を書いたりして、中身を伝えるのである。

なぜこのような「頭でっかちな世界」になったかと言えば、ピカソの登場によって遠近法などを崩しても「きちんと絵として見える」という事が今までの美術の常識を覆した事にはじまり、カメラの普及で写実画家の存在意義が問題になった事が原因である。マルセル・デュシャンの泉もこの辺りの話には欠かせない。(この辺りとポストモダニズムなどとの関連について書き出すと話が進まないので割愛する。)

そして、その文脈は一面的ではなく、様々な解釈が可能な「マルチレイヤーコンテキスト(重層的な文脈)」が込められていることが大事なのだ。場合によっては単なるエロに見えたり、過去の有名作品のオマージュを感じ取れたり、はたまた現代の社会問題の風刺を感じ取れたりするのが「面白い」アートなのである。

最近何かと話題のバンクシーであれば、この「金で評価される世界」自体への風刺が文脈になっている。先日の「オークションで落札直後にシュレッダー」というのもそうだし、世界各地に落書きを残しているのも、それを見つけた人間が騒ぐ行動自体を風刺しているのだ。(日本人はバンクシーに笑われているのである。)

嘗てはは自身の絵を「1作品60ドル」という看板のみを出してニューヨークで路上販売した結果、たった7枚しか売れなかったという事実を動画で発表することで、人間がいかに作品を見ていないかを風刺したりということもあった。(本当は少なく見積もって数万ドルの価値がある。)

宇宙に行ったアーティストの作品という文脈

前澤氏の話に戻るが、彼が月周回計画について「月と丸い地球からインスピレーションを受けたアーティスト達が生み出す作品を、人類の財産として後世に残したい」 という想いを口にしている事から考えても、これは今まで誰もやった事が無い全く新しい文脈であるのは確かだ。

そして本人は既に著名なバスキアを123億円で落札するなど、現代アートへの投資を行っている。投資と言っても少なくとも本人は「ビジネス的な投資」であることは否定しており、歴史を作っていくことに興味がある事が様々な発言から読み取れる。

勿論、これは前澤氏本人の「初の民間人月旅行者」という歴史を形成したいという野望もあるだろう。「歴史を作りたい」というのは言い換えれば「歴史に名を残したい」事と同義であり、大きな野望を持った人であるとも言えるだろう。

宇宙に行ったアーティストの作品がどんなものになるかは分からないが、注目されることは間違いない。少なくとも本人は多額の投資をするわけであり、一緒に連れて行く6~8人のアーティストを高く評価するつもりなのは間違いないだろう。

そして、もし宇宙の藻屑になってしまったとしても「初めて宇宙で亡くなったアーティスト」として生前残した作品に大きな文脈がつく可能性も高い。

ということなので、前澤氏は何も考えていないように見えて、筆者には壮大な計画を持った人に見えるわけだ。というわけなので、是非とも3Dプリンターロケットも頑張ってほしい。

参考文献

村上隆(2006)『芸術起業論』幻冬舎

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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