ニッセイ基礎研究所の宮垣淳一氏が「マルクスからESGへ」という短いコラムを書いていた。タイトルに釣られて読んだのが、なぜマルクスを入れたのかが分からない内容であったが、そこからESG投資が無理筋であることも見えてくる。
要約すると以下の内容である。
- マルクスは、資本主義では資本家が労働者を搾取すると主張
- 問題に気づいた国は法整備などによって労働者の人権や環境問題の解決を図った
- 21世紀の経済のグローバル化により、グローバル企業が法整備が不十分な新興国で問題を起こすケースが出現(環境問題、児童労働など)
- こうした背景から生まれたのがESG投資であり、資産運用の世界でも地位が向上している
- 資本主義の力で課題を解決しようとするESGが、国家資本主義である中国の企業にも影響を与えられるのか(マルクスを驚かせられるのか)期待
つまり、マルクスが指摘した労働の問題は国が解決してきたが、経済のグローバル化においては企業自身が資本の力で自制しなければ歯止めがきかない。この考えが根底にあるのがESGであり、マルクスが驚く(資本主義でも社会の問題を解決できる)のを期待している、という内容のようだ。
ESG投資とは、E(Environment:環境)・S(Social:社会)・G(Governance:企業統治)に配慮している企業を重視して行う投資のことである。以前よく言われていたCSRに配慮した企業に投資するSRI(社会的責任投資)よりも幅広い概念である。
環境や社会に配慮した企業行動は望ましいと思うし、気候変動が国家間の経済格差を拡大する可能性など、 長い目で見れば投資家へのリターンに資する可能性もあり、ESGという概念自体は必要であろう。
しかし、ESG投資が有効かと言われれば疑問点が多い。コラムにおいて、
資本主義の持つ利益追求姿勢は時に大きな問題を引き起こす。その課題を資本主義の力、資本の力で解決していこうというESGの言わば逆転の発想がどこまで成功するのか、国家資本主義と言われる中国の企業にも影響を与えていくことができるのか、資本主義が生み出した新たな知恵がマルクスを驚かすことを期待したい。
とあるように、グローバル企業がESGによって中国企業に良い影響を与えられれば望ましいが、与えられなければ負けるのみである。そして、法整備が不十分な国において特定の企業だけESGに配慮した企業行動を取るのは経済活動上不利になる。
ビジネスにおいて不利であれば、こうしたESGに配慮した企業をスクリーニングして投資してもおそらく高いパフォーマンスは得られない。もし高いパフォーマンスを得られるとしても、それは「ESGに配慮する余裕がある大企業の経営が安定している」のが理由と考えられ、ESGに配慮しているからといって好業績になるわけではないと思われる。
そもそも、マルクスを引き合いに出しているが、マルクスが指摘した問題はコラム中にもあるように「国が法律で解決した」のであり、そこから企業のESGに期待する方向にもっていくのは論理的に飛躍している。
大企業にESGを期待するのは良いが、新興国の土着企業への影響まで期待するのはかなり難しいと言わざるを得ず、新興国は新興国で法整備を期待する必要があろう。
参考文献
ニッセイ基礎研究所「マルクスからESGへ」2019年4月26日