米国で国家レベルの銃規制が困難であることの本質はロビー活動ではない(1)

米国で銃乱射事件が発生する度に「銃規制」について議論され、またそのハードルとして「全米ライフル協会によるロビー活動」が挙げられる。ロビー活動が強力であることは確かだが、共和党に批判的なマスコミが多い日本では、ややその側面だけが強調されているように思える。

同時多発テロ事件以降の米国では、先日のテキサス州エルパソでの銃乱射事件のように、憎悪犯罪とヘイトクライムとの関連性も強くなっており、州レベルでの規制強化はあり得るが、国家レベルでの抜本的な銃規制は困難である。

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その根拠はアメリカ合衆国憲法の修正第2条と修正第10条である。1788年当初の合衆国憲法にあった専制政治が行われる可能性に対して追加されたのが修正第1-10条で、英国に倣って「権利章典」と呼ばれる。

当初の合衆国憲法が主に国家について定めたものであるのに対し、権利章典はいわば国民の基本的人権を定めたものである。 言論の自由や令状主義、財産権、陪審裁判を受ける権利など最重要と言える権利が並ぶ。

そこに並ぶのが修正第2条と修正第10条である。

修正第2条[武器保有権] [1791 年成立]
規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない。

修正第10条 [州と国民に留保された権限] [1791 年成立]
この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される。

American Center Japan(在日米国大使館広報・文化交流部)

修正第2条は「人民の武装権」とも言われ、米国で銃保有が認められる最大の根拠である。銃規制の話が出る度に全米ライフル協会が持ち出すのもこの条項である。銃規制強化を超えた銃禁止が困難なのはこの条項がハードルになるからだ。

そして修正第10条は国家による銃規制強化も難しくする。修正第10条は、連邦政府が不当に何らかの規制を州政府や国民に押し付けることを禁止するための条文である。 前述の「専制政治のリスク」を回避する上で重要な条項である。

実際、この修正第10条によって撤回された銃規制が1994年施行の「ブレイディ法」である。ブレイディ法は、

  • 拳銃の販売に5日間の猶予期間を設けること
  • 拳銃の購入希望者の犯罪歴や精神障害歴の調査の義務付け(バックグラウンド・チェック)

などを定めたものであるが、このうちバックグラウンド・チェックの義務化が修正第10条に違反していると1997年に違憲判決が出ている。(ブレイディ法は現在は失効している。)

もっとも、民主党は銃規制の論調が強いので、政権交替すれば何らかの銃規制が進められる可能性はあるが、過去の事例においても「時限立法」が限界で、ブレイディ法のような本質的な銃規制ではなかなか更新が難しいのが実態である。

続き:米国で国家レベルの銃規制が困難であることの本質はロビー活動ではない(2)

権利章典を改正すれば可能かもしれないが、基本的人権に関わる部分の改正はそう簡単ではない。

日本においても、もし日本国憲法の第11条(基本的人権の尊重)や第19条(思想及び良心の自由)などを改正することを考えれば、そのハードルの高さは分かるだろう。米国において修正第2条や修正第10条はこれに匹敵する条項である。第9条などとは訳が違うのである。

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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