8月3日に米国テキサス州エルパソで発生した銃乱射事件では20人もの死者が出た。トランプ大統領はゲームのせいにするなどしてエレクトロニック・アーツ(EA)などがとばっちりを受けているが、犯行予告がされていた匿名掲示板8chanでの記述内容を見る限り、ヘイトクライムとの関係を指摘する声が多い。
参考:ITmedia NEWS「20人死亡のエルパソ乱射事件、「8chan」がまた犯行予告に利用された」2019年8月5日
参考:ブルームバーグ「トランプ氏、白人優越主義を非難-銃乱射事件での批判受けた後に」2019年8月6日
米国では2016年の米国大統領選挙以降にヘイトクライム(人種、宗教、性に対する偏見や差別などが原因で起こる犯罪。憎悪犯罪。<デジタル大辞泉>)が増加したとして「トランプ効果」として批判をする論調が強い。
このトランプ効果について、アラバマ大学のグリフィン・エドワーズ氏とロヨラ大学のスティーブン・ルーシン氏が2018年1月に投稿した論文が、今回の銃乱射事件の影響を受けてSSRNでのアクセスが急上昇している。
SSRNはオープンアクセスリポジトリなので、以下から無料でダウンロードができるので、詳細は原論文にあたってほしいが、ここでは流行りに乗じて簡単に内容を紹介したい。
参考文献:Edwards, Griffin Sims and Rushin, Stephen, The Effect of President Trump’s Election on Hate Crimes (January 14, 2018). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3102652 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3102652
この研究では、時系列分析とパネルデータ分析により、1992-2017年の米国での地域別のヘイトクライム(憎悪犯罪)発生率とトランプ大統領の選挙活動の関係が調べられた。
単純に各年のヘイトクライム件数を四半期別に見たのが下図だ。トランプ氏が大統領選挙に出馬した2016年はQ4にかけてヘイトクライムが増加していき、2017年は近年で最も高い発生件数で推移している。
但し、これだけではトランプ大統領の原因とは言えない。オバマ大統領の二期目の選挙2012年の時もQ3までは発生件数が多かった。
民族などへの嫌悪が関係することが示唆されるのは次のトレンド除去変動解析法の結果である。トレンドを除去すると、同時多発テロが発生した2001年の発生件数が非常に多いことが分かる。次に明確な増加が見られるのが2016年以降であり、これがトランプ大統領の関係が指摘される部分である。2012年も少し増えているが、トレンドを除去するとそこまで高い発生頻度ではない。
ここからが調査の本質で、州(State)や郡(Country)、年(Year)などで調整し、トランプ効果などを検証した結果が以下の図である。
ダブルダガー(‡)が5%水準で有意なものである。ここでの数値は「1四半期で1州当たりに発生したヘイトクライム件数」をどれだけ押し上げたかという数値で表されている。
これによると、どのケースでもトランプ効果(Trump Effect)は0.13件程度発生数を押し上げたことになる。全体の平均は0.57件なので、結構大きな影響力である。米国には3,151郡あるので、1四半期で米国全体で約410件ヘイトクライムが増えたことになる。
ただし、最も影響力が高いのはやはり同時多発テロ(911事件:September 11th)効果であり、約0.25件押し上げる結果となっている。なお、DOJ Intervention(司法省の介入)は有意差が無かった。