たった一つの過ちでトランプ大統領再選シナリオが崩れた

筆者は今まで11月の米国大統領選でトランプ大統領の再選を前提にしていた。これは筆者に限らず投資家の多くが同様であった。しかし、「たった一つの過ち」がこの前提を崩したと言える。

たった一つの過ちとは3月3日にFRBが年1.50~1.75%から年1.00~1.25%へと大幅な緊急利下げを行なうことを決めたことである。これの効果は薄く、その後米国株式市場は急落した。

市場が急落したのは0.25%ずつの利下げではなく、それ以上のまとまった利下げの後に景気が冷え込んだケースが圧倒的に多いからだ。それだけFRBの「焦り」が市場に伝わったからだ。未だ米国経済のファンダメンタルズは強く、新型コロナウイルスの経済への影響はこれからというパウエル議長の発言と緊急利下げが一致しないのが余計に印象が悪い。

今後、更に利下げを催促するような売りが仕掛けられる事は容易に想像できるが、利下げ余地が小さいのはマーケットにとって大きなリスクである。

さて、ちょうど1年ほど前、筆者はなぜトランプ大統領が再選するのかという記事を書いた。この時に取り上げたのがレキシントン研究所のローレン・トンプソン氏が挙げたトランプ大統領が再選する6つの理由である。再掲しておこう。

  1. 過去50年間のうち出馬して再選できなかったのは2人のみ(カーターとブッシュ父)
  2. 強い経済(失業率は記録的な最低水準でインフレも発生していない)
  3. 有権者の多くはシリアなどからの米軍撤退に好意的
  4. 経済が好調なので政府からの再配分についての需要も減少する
  5. 現時点では対立候補が不明確なので世論調査の信頼性が低い
  6. 有権者はトランプに慣れ、トランプも立場を調整している

このうち1の「現職有利」という点は未だ変わらない。再選シナリオが崩れたと言っても「ほぼ確実に再選する」という依然のシナリオが崩れただけで、トランプ大統領の再選可能性が高いのは変わらない。そして3は着々と成果が進み、6も未だ変わらないだろう。

しかし、2・4・5については大きく状況が変わってきた。学資ローンの問題など4の再配分についての需要が高まっており、サンダース氏が若年層を中心に高い支持を集めている。

結果的にブティジェッジ氏の撤退などで対立候補がバイデン氏への一本化が進み、最終的にはバイデン氏が候補者として勝利する可能性が高くなった(それにより3月4日のダウ平均株価は急騰)ので、最終的にトランプ大統領VSバイデン氏の戦いになれば良い勝負をするだろう。(万が一サンダース氏が候補者として残ればトランプ大統領の再選は盤石である。)

そして2の「強い経済」についても現時点では好調だが、新型コロナウイルスの影響は今後暖かくなるにつれて出てくるだろうし、先の学資ローンの問題だけでなく、レバレッジド・ローン問題など無視できない問題は多く存在する。

逆に言えば、FRBは新型コロナウイルスだけでなく、こうした潜在的な問題も注視した上での大幅利下げに動いた可能性もある。実際にそのリスクが顕在化すればトランプ大統領の支持を源泉である「強い経済」が崩壊することになり、そうすれば落選の可能性も出てくる。

先日も再び逆イールドカーブが発生している。逆イールドカーブは突発的なショックに弱い経済状態になった事を意味し、新型コロナウイルスの影響で経済がズルズルと後退しなくても何らかの拍子に一気に不況入りする可能性は否定できない。

このような意味で、今までトランプ大統領の再選は盤石という状態から、トランプ大統領とバイデン氏が良い勝負をするという意味で「(余裕の)再選シナリオが崩れた」と言える。

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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