マーケットは2020年の大統領選挙でのトランプ大統領の再選を前提として動いている。
それはブックメーカーのオッズを見ても分かる。1番人気のドナルド・トランプは2/1(日本式表記で2倍)に対して、民主党の最有力女性候補カマラ・ハリスでも13/2(6.5倍)と大差である。今後、大統領選が近づくにつれて民主党の候補者も一人に絞られていきオッズも近づいていくだろうが、現時点ではトランプが最有力である。
これは、レキシントン研究所のローレン・トンプソンも言う通り、再選に対する悲観的な見方は「マスコミの願望」であり、出馬すれば再選するという見方を示している。(2016年の大統領選挙でどれだけヒラリー有利と報道されていたかを見れば分かるだろう。)
トンプソン氏は、再選の可能性が高い理由について、以下の6つの理由を挙げている。
- 過去50年間のうち出馬して再選できなかったのは2人のみ(カーターとブッシュ父)
- 強い経済(失業率は記録的な最低水準でインフレも発生していない)
- 有権者の多くはシリアなどからの米軍撤退に好意的
- 経済が好調なので政府からの再配分についての需要も減少する
- 現時点では対立候補が不明確なので世論調査の信頼性が低い
- 有権者はトランプに慣れ、トランプも立場を調整している
1については、ニクソンやレーガン、クリントン、オバマなど再選が危ういと言われた候補者でも再選しており、それだけ現職が有利という選挙の一般的な傾向である。
経済については景気後退リスクが多く指摘されるが、2について選挙ではあくまでも「有権者がどう思うか」が重要であり、現時点で雇用状況が良く、購買面にも悪い影響は出ていないので、高い評価に繋がるということだ。同様の理由で、民主党が重視する4の再配分についても言える。これは米国の多くの家計が将来の見通しで楽観的であることと一致する。
3の米国が「世界の警察官」を辞める動きはオバマ政権の時からであり、基本的にそれを追随している点では前政権から変わらない。例外的に中国を何とかしろという意見は共和党・民主党双方から多いが、それに関しては動いており、マスコミが言うよりかは柔軟な性質を持つことが分かる。
5は、対立候補が不明確な時点での支持率は選挙結果の予想としてはあまり役立たないということを示唆している。実際、以下の米国大統領の支持率推移を見ても、レーガンやクリントン、オバマなど、1期目のこの時期の支持率は低いが再選しており、今の支持率が高くない事を鵜呑みにしてはならないことを言っている。(しかもトランプの場合は支持率が安定しているとも言える。)
6も選挙に関する一般的な傾向である。トランプが大統領になれたのは「オバマ政権時代の反動」であると思うが、一般的には極端な政策を掲げるよりも、中道に近い政策を掲げた方が、多くの人から支持を得られるからだ。
単純に政策立場を古典的に右・左と分けた場合、極左にしろ極右にしろ支持層は少なく、多くの人は中道左派から中道右派の間に位置する正規分布のような形になる。選挙では「最終的に誰かに投票」することになる(投票しなければ意見が反映されない)ので、極右の人が極右をターゲットにして政策を掲げるよりも、少し中道に近い政策を掲げた方が、より多くの人の支持を得られる。(極右の人は仕方なくその人に投票する。)
トランプも2年間で柔軟になり、以前よりスタンスが和らいだ印象であり、支持層を増やす可能性が高い(少なくとも現職有利を覆すほどにはならない)というのがトンプソン氏の主張だ。
そして、前述の通りマーケットも基本的に「トランプ再選」で動いており、多くの人が信用リスクを理解しているが、株式市場にとってトランプである方が良いので、一時的なショックはあろうと大統領選までは株高が続くのではないかというのが、現状の筆者の立場である。
極端な話、サンダースのように「自社株買い禁止」のような政策を掲げている候補者が大統領になれば、株式市場への悪影響は非常に大きい。トランプ自身が「株高」を重視しており、もし大統領選までに株式市場が崩壊するようなことがあれば、トランプ有利の状況が揺らいでしまう。だから、トランプが再選するにはトランプが再選しやすい状況(株高)が継続する必要があるのだ。
もっとも、ファンダメンタルズ的に危険なのは広く知られてきているので、定期的に仕掛けは入ると思われるので注意は必要であろう。
参考文献
Forbes, “Why President Trump Will Likely Be Reelected, And What It Means For Global Security”