2005年にイタリアが財政危機を解決するためのポルノ税を一時導入し、2008年に金融危機に対応させるために復活させたなど、ポルノ税の例は幾つか存在する。(イタリアではポルノ雑誌や映画の売上に一律25%を課すというものだ。)
そんな中、米国アリゾナ州の共和党上院議員ゲイル・グリフィン氏がHuman Trafficking and Child Exploitation Prevention Act (HB 2444 : 人身売買および自動搾取防止法)の成立を目指している。
これはインターネット上のアダルトコンテンツの製造業者と供給業者にアクセスフィルタを導入することを求め、アリゾナ州の18歳以上の人は、フィルタを解除するために20ドルを州に支払わなければならないというものだ。
フィルタリングの対象やあらゆる種類のポルノコンテンツと出会い系サイトであり、集められたポルノ税はジョンマケイン人身売買基金に使われるという。
Nestmann Groupの代表Mark Nestmann氏は、グリフィン氏のポルノ税案を以下のような理由で「酷い考え」だと批判している。
まず、どこからアダルトコンテンツになるかわからないので過剰にコンテンツフィルタがかかり、消費者が不利益を被る可能性がある。そして、州にフィルタができれば、回避するために別の州・国のウェブサイトに移動するのは当然考えられるシナリオで、フィルタを回避していないかを検閲するコストがかかってしまう。検閲が行われるならばVPNでそれを回避しようとする動きが出るはずなので、VPNもブロックしなければならず、セキュリティ上の問題が生じる。
Nestmann氏は、ポルノ税を進めていく先には中国のグレートファイアウォールのような大規模な検閲しか無いと悲観的な見方をしている。
筆者は、ポルノ税が大きく拡がっていくというシナリオは現時点では想定していないが、仮に法案が通ったとしても、上記のような検閲システムを築くには余計にコストがかかって税としての意味をなさないので、単なるザル法になると考えている。
ポルノ税の導入に賛成する人はタバコ税や酒税を引き合いに出すことが多いという。つまり、負の外部効果がある嗜好品に対して税金をかけることで、結果的にその嗜好品の消費を抑える働きが生まれるというものだ。
但し、Netsmann氏が言うように、インターネットの場合は世界中にアダルトコンテンツが存在する上、どこからアダルトコンテンツとみなすべきかよくわからないものも多く、(中国のようなやり方ではない)民主主義的な方法で規制することは不可能に近いだろう。
また、アダルトコンテンツの場合は性犯罪などを抑制しているという効果も多くの研究で指摘されており、ポルノの消費を抑えたところでトータルで外部効果がプラスかどうかも不明である。
そういう意味で、州単位でポルノ税を導入しようというのは愚かな政策であろう。
参考文献
International Man, “Is there a “Porn Tax” in your future?”, 13 Apr 2019
BBC News, “Italy approves tax on pornography”, 14 Dec 2005
italy magazine, “Italy revives porno tax”, 1 Dec 2008