最近、米国の人材業界でミンターンシップ(minternship)という用語がプッシュされている。middle + internshipの造語であり、30歳代くらいのキャリア中期にかかる時期に、キャリアをリセットする目的で学習者となってインターンシップを受けることを言うらしい。
日本ではかなりリスキーな行為だと思うが、米国では、
- 学歴至上主義社会である
(関連記事:米国学資ローン残高が1660億ドルを超える:多くの学生はハイリスク・ローリターン) - 解雇規制が緩い
- ミレニアル世代の71%が退職を検討している
(関連記事:旅行のために働くミレニアル世代のリモートワーカー)
といった状況なので、割と現実的な選択肢かもしれない。
ミンターンシップの位置付けは、現在の仕事に不満があったり、今後のキャリアに迷いがある場合に、安易に転職したり大学院に進学したりといった方法の代わりに取る第三の選択肢である。
この場合のインターンシップは有給のインターンシップを指しており、以下のようなメリットがある。
- 未経験分野でも学習を目的としてチャレンジしやすい
- 大学院に進学するよりかは機会損失が少ない
- 企業にとっては低リスクで社会人経験がある人を発掘できる可能性がある
普通は中途採用であれば即戦力が求められるわけで、なかなか新しい事に挑戦したいという人と企業のマッチングする可能性は低い。有給インターンシップという形であれば、企業にとっても低リスクでこうした「キャリアを大きく変えたい人」を試すことができる。
つまり、「以前の仕事の経験が新分野にも活かせる資質を発掘できる」というのが、ミンターンシップを「売り出したい人」が掲げる企業向けのメリットである。
こうしたキャリアの大転換においては、従来は大学院や資格取得といった方法が取られることが多いが、その場合はコストがかかるだけでなく収入も激減するので機会損失は非常に大きい。ミンターンシップであれば、多少の給与は出るので機会損失はかなり削減されるというアイデアである。
一方で、次のようなデメリットもある。
- 若い人と一緒になってインターンシップを受けたり、自分よりも若い上司の下で働くことで感情面が不安定になる可能性
- 現在のキャリアで築いた地位や報酬をリセットすることになる
- (大学院に行くよりマシとは言え)財政的な損失がある
基本的に今までのキャリアをリセットすることが前提なため、下っ端からやり直す事になる。その財政的な影響や心理的な影響(プライドなど)は少なくないということに注意する必要がある。
人材業界はミンターンシップ(minternship)という言葉を売り出したいようだが、現時点ではまだまだ一般的な用語ではない。(Googleで検索してもインターンシップやinternshipに訂正される。
それでも最近は急激に検索数も増えており、海外メディアでの露出も増えている。以下は過去5年間におけるminternshipsとminternshipのGoogleトレンドである。「すべての国」での検索数を示しているが、現時点で殆ど米国からの検索が大半である。
2017年以前の検索はMINTernshipという別の用例である。英語でSTEM(Schience, Technology, Engineering and Mathematics)は、ドイツ語でMINTと言い、その教育を行うインターンシップとしての用例を指しており、最近増えている用例とは異なる。
キャリアの中途にある人のインターンシップという意味での用例は2016年後半くらいから出現してきており、2019年夏以降に急激に増えている。ニュース検索などでも同時期に記事が急増していることが分かる。
今後このスタイルや用語が定着していくかは不明だが、雇用が流動的な米国社会で、仕事が長続きしない若者をターゲットにした新しい人材活用として面白い。
参考文献:Fast Company, “The ‘minternship’ might be a fix to your mid-career woes”, 21 Oct 2019