社会的距離を置くことができる若者の特徴

独トリーア大学のマーク・オリバー・リーガー教授が公開した論文が興味深い。新型コロナウイルスの対策として社会的距離(social distancing)を置くかについて、被験者の知識や警戒感、メディアへのスタンスなどとの関係を調査したものである。論文によると、社会的距離を置くことを重視するかは、(1)被験者が知る高齢者の数、(2)被験者が陰謀論をどの程度信じているか、(3)収束までの期間をどの程度長く見積もっているかが関係するという。

被験者はトリーア大学の250人(学生204人、職員46人)に対し、50ユーロの報酬を伴うアンケート調査が行われた。年齢の中央値は23歳である。分析には回答時間が以上に短かった学生22名を除いたデータが用いられた。

まず、「大学のキャンパスで誕生日会を行う」や「友人とのハグを拒否する」など5つのシナリオに対して、新型コロナウイルスの影響下でどの程度その行動に同意できるかが4段階で問われた。

以下はその結果である。前者3つのシナリオ(キャンパスでの誕生日会、友人同士でのサッカーの試合、風邪をひいている状態で老人ホームに行く)については多くの被験者が受け入れられないと回答しているが、3のような回答であっても一部は是認できるという回答者がいる。後者2つ(友人とのハグの拒否、友人に対して会い続けるのは無責任だと主張する)について同意する人が多く、5つの質問から社会的距離を置くことに同意する人が多いことが分かる。

社会的距離に関係するシナリオの対する回答結果
出典:Rieger(2020), Figure 1

次に、新型コロナウイルスについて8つの記述が正しいかが問われた。「咳やくしゃみだけでなく喋ることでも感染する場合がある(Transmission ways)」(正)や「症状が出ている人だけが他者に感染させる(Infectious w/o symptoms)」(誤)などである。誤答が多かったのは「ウイルスは長く潜伏し、殆どは症状が出ない(Othe Coronaviruses)」(正)で、次いでウイルスの正式名称(SARS-CoV-19)だった。

新型コロナウイルスに対する知識
主点:Rieger(2020), Figure 2

著者は、正答率は低くはないが望ましいほど高いわけではないと解釈している。

次に、メディアと陰謀論について3つの質問がされた。1つ目の「ドイツでのウイルスについての公式情報を信用しているか」については大部分の被験者が信用しているという結果が出たが、2つ目「メディアはウイルスについての情報を隠蔽している」、3つ目「コロナについての大袈裟な報道は製薬会社などによって引き起こされた」など陰謀論を信じる人が一定数存在することが分かっている。

他にも、「高齢者の知人数」、「指数関数的な感染者数増加についての知識」、「コロナウイルスを心配しているか(1~5段階)」、「ドイツで死者が何人出るか」「今後どれくらいで現在の制限が終わるか」などが聞かれた。特に死者や制限期間についての予想は専門家よりもかなり楽観的な傾向があった。期間については、専門家の1~2年に対し被験者は6週間が中央値だった。

一連の調査を下に回帰分析が行われ、最終的に統計的に有意であったのが以下の3つである。

  • 制限終了までの予想期間
  • 被験者が個人的に知る高齢者の数
  • 被験者がどの程度陰謀論を信用しているか

新型コロナウイルスについての知識などについては殆ど関係なく、特に重要なのは知人に高齢者がいるかと陰謀論の強さである。家族に高齢者がいれば注意するだろうし、陰謀論を信じていればそのリスクを他者より評価するので社会的距離を取らないということだ。

この論文は、未査読であることや一部のデータやモデルの係数などが公開されていない事に注意しなければならないが、著者自体の過去の研究実績は一定の評価が置けるものであり、速報性のある発表として有用と言えよう。

出典:Rieger, Marc Oliver, What Do Young People Think about Social Distancing during the Corona Crisis in Germany? (March 25, 2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3561366

論文本文(PDF注意):https://www.uni-trier.de/fileadmin/fb4/prof/BWL/FIN/Files/Corona-Rieger.pdf

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