MLBの観客動員率と勝率の関係

本稿では、MLBの観客動員率と勝率の関係についての研究Woltring(2018)を紹介する。これは、南アラバマ大学のスポーツマネジメント助教授のMitchell Woltring博士が1998~2018年のMLBの各チームの平均観客動員率と勝率の関係を調査したもので、動員率の最大化がチームの勝率を向上させる可能性を示唆している。これは、代表的な先行研究とのギャップを埋めることを目的としており、分析に使われる変数も非常に興味深い。

観客動員「数」ではなく観客動員「率」(スタジアムの収容人数に対する観客動員数)なのは、MLBのスタジアムの収容人数は34,000~56,000人と差が大きく、動員数では他の影響を拾ってしまう可能性があるからだ。観客動員率はそのままの数値だけでなく、Baade & Tiehenによる「75%以上の動員率が並外れた興奮感を生み出す」という主張を元に、動員率75%以上か否かをカテゴリ変数としている。

勝率に関しては0~1のそのままのデータだけでなく、Vroomanの研究による「勝率55%を超えるとプレーオフに進出しやすい」という結果を踏まえ、勝率55%以上か否かをカテゴリ変数としている。

分析にあたって論文では「平均年俸」「年」「スタジアムの収容人数」 でコントロールし、これらの影響を取り除いた上で観客動員率と勝率の関係が調べられている。

「平均年俸」が高ければ一般的に良い選手を集めやすいので、Hallらの研究による「平均年俸がリーグ平均年俸の150%以上になると勝率55%以上を記録しやすい」という結果から、平均年俸を150%以上上回るかがカテゴリ変数として使われている。

MLBには年俸に上限が無いので、年によって平均年俸の分布は変わってくる。そこで「年」でコントロールされている。更に、Clapp & Hakesによると「新しく建設されたスタジアムの観客動員数は32~37%増加し、その効果は6~10年間続く」ので、「スタジアムの収容人数」と「年」でコントロールされている。

これらをコントロールした上で採用された仮説が以下のものである。

  • 年平均動員率が75%を超えるチームは、75%を下回るチームよりも勝率が55%を超えやすい
  • 年平均動員率が75%を超えるチームは、75%を下回るチームよりも勝率が高くなりやすい
  • 年平均動員率と勝率は正の相関関係にある
  • 年平均動員率が高いほど勝率が55%を超えやすい

これらの結果よりWoltringは、収容人数が少ないスタジアムであっても、できる限り席を埋めることでチームのパフォーマンスを高める可能性があると結論づけている。またこの理由として沢山の観客の前でプレーすることによる心理的効果によりパフォーマンスが向上する可能性を指摘している。

スポーツマネジメントへの応用としては、シーズンの早い段階で安いチケットの価格設定を行うことで、スタジアムの盛り上がりによりチームのパフォーマンスが向上し、更に観客が増えるという好循環を起こすという提案をしている。これは、MLBの球団の収益はチケットによるものよりも放映権が圧倒的に多いことを前提としている。

筆者が読んだ所感としては、「応援の力」を裏付けるものの一つとして非常に興味深いと思う一方で、この研究では年平均動員率と年間勝率を対象としているので「強いチームはシーズンの後半でも動員率が高く、弱いチームはシーズンの後半になると動員率が低くなっているだけではないか」とも思えるので注意が必要である。

実際、Woltringも「試合単位」での分析の必要性を示唆しており、「デーゲームとナイトゲーム」「平日と週末の試合」「現在の勝敗動向」など様々な要素を考慮する必要性や研究の可能性を提案している。

参考文献

Woltring, Mitchell T. “Attendance Still Matters in MLB: The Relationship with Winning Percentage.” Sport Journal (2018).

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