なぜ米国マイナーリーグの年俸は低いのか

サンフランシスコ・ジャイアンツ傘下の3Aサクラメントに所属するタイラー・シアー投手がtwitter上で自身の給与明細を公開したことが話題になっている。年俸は10,275ドル、税などを引くとわずか8,216ドル(約88万円)であることから多くのメディアが過酷なマイナーリーグの状況を取り上げている。

参考:Full-Count「選手の年俸約88万円…過酷な現状に米で苦言「しっかりしてくれ、マイナーリーグ」」2019年10月10日

ハンバーガーリーグとも揶揄されることも多いが、その実態は過酷だ。イチローと共にオリックス・ブルーウェーブで95・96年の連覇に貢献し、メジャーリーグでも8年間プレーした田口壮氏(現オリックス・バファローズ一軍野手総合兼打撃コーチ)は、オリックス二軍監督時代に『プロ野球・二軍の謎』(幻冬舎新書)を執筆している。その第2章で、自身のメジャーリーグとマイナーリーグでの経験などを踏まえ、日本のプロ野球の二軍との比較を行っている。

田口壮(2017)『プロ野球・二軍の謎』幻冬舎

華やかで年俸も高いメジャーリーグに対し、過酷なマイナーリーグとその差が違うのは、競争心を高めるための仕組みの一つでもあるが、それ以前に田口氏が指摘するように、マイナーリーグの経営はメジャーリーグとは全く別である。

日本のプロ野球であれば、一軍も二軍も同じ親会社の経営下にあるが、マイナーリーグのチームは特定のメジャーリーグのチームの「傘下」と言っても経営は全く別である。所属するメジャーのチームが変わることも珍しくない。

選手への投資としてメジャーリーグ側がもっと資金を供給すべきという意見もあるかもしれないが、田口氏は日本の二軍と米国のマイナーの「あり方」が以下のように全く異なると指摘する。

日本のプロ野球における二軍は、選手を育てる場所であると同時に、一軍が勝つための人材を派遣する場所、もしくは一軍選手の調整のための場所といった役割があります。(中略)アメリカにおけるマイナーリーグの存在意義もまた、メジャーの勝利のためという部分は同様ですが、特にすぐ下の3Aには、「育てる」という意識とともに、即戦力がしのぎを削って「一軍昇格を待つ場所」という印象があります。

田口(2017: 60-61)

要するに日本の二軍では一軍のためにじっくりと育ててくれるが、米国のマイナーでは基本的に供給過剰であり、マイナーで成績を残していても契約の関係(オプションシステムなど)で昇格できないことも多々あり、メジャー側がマイナーに多くの資金を供給するインセンティブも働かない。勿論、マイナーチーム単体はそれほど資金が潤沢ではないので、年俸を多く払う余裕も無い。

また、多くのマイナーのチームでは試合がある時期しか給料が出ない場合が多い。ショートシーズンA(シングルAの一つ)などリーグによっては3ヶ月など短いシーズンだけのものもあり、こうしたリーグでは「給料も週給5000円ほど、というシステムさえ」あるという。

試合やキャンプがある時期はハンバーガーやフライドポテトといったものであるが、田口氏によると、お金の無い選手によっては食事が出るだけマシであり、そうでない時期は食費や家賃を稼ぐためにアルバイトをするケースも珍しくない。

恐らく、こうした状況はマイナーリーグのチーム数と規模の大きさを考えれば、変えることは難しいと思われる。マイナーチームをメジャーリーグと統合すれば改善の可能性はあるかもしれないが、恐らく予算的に難しいだろうし、何よりもメジャーリーグの選手会が反対するだろう。

メジャーリーグの試合数は多く少ないロースター枠をやりくりするのが大変で、先発投手の選手寿命なども考えてMLBでも度々ロースター枠を増やすことが提言される。しかし、ロースター枠を増やせば一人当たりの出場試合数や一人当たりの予算も減るわけであり、年俸の低下が懸念されることを理由に、選手会は反対しているのだ。

参考文献:田口壮(2017)『プロ野球・二軍の謎』幻冬舎

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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