ICOが引き起こすモラルハザード

最近SSRN(社会科学・人文科学を中心としたオープンアクセスリポジトリ)で非常によく読まれているのがUCLAのポール・モムタズ氏による”Entrepreneurial Finance and Moral Hazard: Evidence from Token Offerings”(起業家による資金調達とモラルハザード:トークン・オファリングによる実証)である。

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)やトークン・オファリングなどブロックチェーンや暗号通貨(仮想通貨)を利用したトークンセールについて、文献的な整理と実証的な分析から、起業家による資金調達がモラルハザードを引き起こしやすい事を示唆している。

以下のリンクから誰でも無料で閲覧できるが、ここでは要約だけ示し、そこから筆者の視点を示す。

Paul P. Momtaz, “Entrepreneurial Finance and Moral Hazard: Evidence from Token Offerings”

論文での主要な結論を以下に列挙する。

  1. ホワイトペーパーの情報が誇張されがちである。その理由は主に[1]市場に発せられるシグナルの多くは起業家の「壮大なビジョン」に基づき、[2]資金調達へのハードルが安価で、[3]ホワイトペーパーの情報をチェックする制度が無いからである。
  2. コイン・トークンの最大供給量が最初に固定されるという構造が、「最初にできる限り多くの資金調達を獲得しようとする」インセンティブが働く。
  3. 投資家は起業家による誇張の多くを見抜けない(過大評価する)。その理由として考えられるのは、[1]ブロックチェーンに対する技術的な知識の不足、[2]ICOの多さから知識蓄積の時間の欠如、[3]ホットマーケットの見逃し(FOMO)を恐れた誇張バイアスの無視である。
  4. トークンが上場されて最初の1ヶ月はボラティリティが高く、徐々にバイアスが意識されて価格が下落する。
  5. 上場後に大きく値下がりしたIOCはプロジェクトの失敗可能性が高くなる。

1.は特段驚くべき結論ではないだろう。特に[3]の理由は重要で、未公開株ならリスクに対して多くの投資家が慎重になるが、ICOの場合は誰でも簡単にオンラインで出資できてしまい、また仮想通貨の上場に関してもIPOのような厳しい上場審査があるわけではないので、過大評価されやすい。また、風説の流布などに対する規制もICOの場合は不十分な国が殆どなので、SCAMも含めて問題が多い。

2.は暗号通貨(仮想通貨)ならではの理由だろう。最初に通貨発行量が決まっている上、1.のように資金調達のハードルが非常に低いので、起業家が発するシグナルが誇張されたものになりやすいという構造を生む。

3.のような「よく理解してないが流行っているので投資する」という傾向はITバブルの時によく見られた。(今ならAIであり、IoTであり、VRである。)仮想通貨バブルは弾けたので、今後はより冷静な投資が増えると思われるが、どのような分野においても何に投資しているかを理解するのは基本である。

4.はIPOでも見られる上場直後のオーバープライシングその後のアンダープライシングと同じと考えられる。最初は期待感から相場が過熱するが、徐々に過大評価であることが理解されるようになり、損失を確定させる投資家が増える。

IPOの場合は、長いアンダープライシングが続き、本当に成長が続く企業であればいつかは上場初値を超えるものだが、ICOの場合は玉石混交と言えども殆どが石なので、再度価格上昇するケースは少ない。そして、市場の評価が下がり続けているプロジェクトは長続きしない(因果は逆ではないか)というのが5.である。

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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