アントレプレナーシッププログラムという言葉を聞けば、IoTなりフィンテックなり新技術のベンチャー支援などを思い浮かべる人が多いかもしれないが、フィリピンの大手飲食企業ジョリビー・フーズ(Jollibee Foods Corp)の起業支援プログラムは「農業」がテーマである。
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農業での起業支援プログラムは地味に思えるかもしれないが、これが非常によくできたビジネスモデルであることが分かる。
ジョリビーのアントレプレナーシッププログラムは農家に活力を与えます(philstar )
- Jollibee Group Foundationの農家起業家プログラム(FEP)は、生産者協同組合などとの連携を通して農家への技術提供や情報提供、教育(原価計算やマーケティングなど)などを通して農業起業家育成を行う
- 小規模農家がジョリビー・フーズなどへ野菜などを直接供給できる(唐辛子など季節によっては相場が低い時期でも直接供給により比較的高い価格で供給できる)
- FEPのパートナー農家はジョリビーが利用する野菜の20%を供給している(数千もの農家の生活改善につながる)
フィリピンのようなまだまだ貧しい人が多い国でこそ通用する起業家プログラムとも言えるが、この仕組みは様々な点でメリットがある。
ジョリビーにとっての製品供給源の確保
下請け業者を作るという側面があり、欲しい原料の供給ルートを確保することができる。その際、中間業者を通さないので(育成コストの回収に時間はかかるだろうが)比較的安価に仕入れることができる。
貧困改善、フェアトレード
教育プログラムの中に「原価計算」など基本的な内容も含まれていることから分かるように、農家が流通業者などに搾取されないように基礎的なリテラシーを身に着けるところから始まっている。これはフェアトレードといったCSR的な側面がある上、中間業者を通さずに直接野菜などを供給できるので、生活水準を向上させることにもつながる。
企業イメージの向上
IoTなりAIなり最新技術の起業家支援も、社会の技術支援として外部効果はあるが、どうしても「投資目的」のイメージが強い。筆者としてはこうしたベンチャー支援は当然重要だと思うが、あまり良いイメージを持たない人がいるのも事実だ。
しかし、貧困問題の解決・食料供給の支援といった面をもつジョリビーの起業家支援プログラムに対して、あまりネガティブなイメージを持つ人は少ないだろう。前述のCSRと内容が被るが、こうした企業イメージアップへの効果も期待できる。
そして、何よりもこのビジネスモデルがうまくいっており、今やジョリビーが仕入れる野菜の2割がFEP農家からだというのが驚きだ。起業家支援やCSRもビジネスとして成立しなければ持続可能ではない。
少なくとも現時点では多くの関係者にとって利点があり、ビジネスとして成立しているのが評価できる。また、農業でなくても似たような起業家支援(決して派手である必要はない)のアイデアとして示唆的であろう。
参考文献
philstar, “Jollibee’s entrepreneurship program empowers farmers”, 8 Apr 2019